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女性の健康と一生

出産後も要注意!20〜40代で増える「子宮筋腫」「子宮内膜症」の症状や予防法とは

2025.12.08
出産後も要注意!20〜40代で増える「子宮筋腫」「子宮内膜症」の症状や予防法とは

「女性の健康と一生」をテーマに、女性特有の身体の変化やその対策について、食事のポイントと共に毎月様々な話題をお届けする本コーナー。

今回は、「女性特有の病気」の中でも20〜40代に多く、女性の4人に1人が持つと言われる「子宮筋腫」と、強い月経痛などを引き起こす「子宮内膜症」について、具体的な症状や食事でできる予防法をご紹介します。
これらの病気は「月経痛は我慢するもの」「出産したから大丈夫」と思い込み、症状を放置してしまう方も少なくありません。しかし、この2つの病気をそのままにしておくと貧血や不妊、生活の質の低下につながることもあります。

そこで今回は、産婦人科医で浜松医科大学名誉教授の金山先生に、子宮筋腫や子宮内膜症が起こる背景や症状、日常生活でできる予防法について伺いました。

INDEX

女性の4人に1人は発症するといわれる「子宮筋腫」とは

女性特有の病気の中でも特に多いものには、どのような病気がありますか?それらの原因もあわせて教えてください。

女性特有の病気の中でも、特に多いのが「子宮筋腫」と「子宮内膜症」です。

はじめに、子宮筋腫の原因ですが、「子宮」という臓器の特徴が関係していると考えられています。実は妊娠をしていないときの子宮は、とても低酸素状態にあり、例えるなら、エベレストの頂上くらいの酸素濃度をイメージしていただければと思います。子宮は生命維持には必須の臓器ではないため普段から血流が少なく、低酸素状態になりやすいといわれています。一方、妊娠すると子宮は他の臓器と同じ程度の酸素濃度になります。

低酸素の組織は腫瘍ができやすいという性質があり、これは人間の身体のどの部分にも共通する現象です。そのため子宮筋腫というのは、「人類の中で最も発生頻度の高い良性腫瘍」といわれています。
実際、女性の4人に1人は子宮筋腫があるといわれており、日本人女性が約6000万人だとすると、1200万人以上が子宮筋腫を持っている計算になります。ただし、すべてが治療対象になるわけではなく、治療が必要なのはそのうちの1割もいない程度です。

治療が必要な「筋腫」は、どのような症状があるのでしょうか?

治療が必要になるのは、主に「貧血」と「圧迫症状」がある場合です。子宮の前には膀胱、後ろには腸があるため、筋腫が大きくなると頻尿・排尿異常、便秘、排便痛などの症状が現れることがあります。

また、自覚症状がなくても、筋腫の圧迫によって血管や臓器に影響が出ている場合には、ホルモン療法や手術をすすめられることもあります。子宮筋腫は子宮が多くなることから過多月経となることがあるため、注意が必要です。特に「粘膜下筋腫」と呼ばれる、子宮の内側に突出するタイプの筋腫は、貧血や不妊の原因になりやすいため、小さくても手術の対象になることがあります。

月経回数の増加と共に増えている「子宮内膜症」とは

子宮筋腫と同様に女性特有の病気として「子宮内膜症」も多いと伺いました。子宮内膜症の原因も教えてください。

子宮内膜症の原因には複数の説がありますが、一般的に認められているのは「逆流説」です。月経は、子宮内膜が剥がれ落ちて経血と一緒に腟から排出される仕組みですが、子宮内膜症は、この腟から排出されるはずの子宮内膜の一部が経血の逆流によって卵管を通って卵巣や腹膜(お腹)に流れこみ、そこで定着してしまうことで発症するといわれています。

子宮内膜細胞は増殖力が高く、腫瘍系細胞に近い性質を持つため、子宮以外の場所にも定着しやすいという特徴があります。

また、子宮内膜が腹膜に定着してしまった場合、次の月経時からお腹の中でも定着した内膜から出血が起こります。その結果、腹痛を感じるなど、子宮以外の場所でも痛みを感じるようになります。

子宮内膜症の症状として多いのは腹痛なのでしょうか?

子宮内膜症の代表的な症状は月経痛です。鎮痛剤を3〜4日飲み続けないと過ごせないほど強い痛みや、年々悪化していくような痛みが特徴です。
ほかにも、月経時以外の下腹部痛、性交痛、排便痛など発症部位によってさまざまな場所に痛みが現れることがあり、さらに、この子宮内膜症は近年増えているともいわれています。

子宮内膜症が増えている理由もお伺いできますか?

子宮内膜症が増えている理由のひとつに、「月経回数の増加」が挙げられます。以前は一生のうちに子どもを4人以上産む方が多く、また栄養状態も今ほどよくなかったため、生涯の月経回数は数十回程度でした。しかし現在は、子どもがいても2人以下が一般的で、生涯で月経が起こる回数は平均で約400〜450回にも上ります。そのため月経回数が増えることで、月経血が逆流するリスクも増え、内膜症が起こりやすくなっているのです。

さらに、子宮内膜細胞はもともと定着しやすい性質を持っていますが、「定着しやすい体質」の方もいます。それは、免疫機能が弱い人、そしてストレスを感じやすい人です。ストレスを強く感じると免疫機能が落ち、身体が“異物”である内膜細胞を排除できず、定着しやすくなってしまいます。免疫力が機能している状態であれば、逆流した細胞があったとしても白血球が処理してくれますが、免疫力が弱いとそのまま生き残ってしまうのです。

20代~40代が発症しやすい「子宮筋腫」と「子宮内膜症」

子宮筋腫や子宮内膜症はどの年代に起こりやすいのでしょうか?

子宮筋腫は30代半ばから40代後半によくみられる病気です。子宮筋腫はエストロゲンに依存して大きくなるため、閉経までは筋腫が大きくなりやすい傾向があります。また、先ほどお伝えしたように低酸素状態であることも腫瘍の原因となるため、血流が悪い人も注意が必要です。

一方で、子宮内膜症は20代後半から増えるといわれています。子宮筋腫よりもやや若い年代で発症することが多く、30代半ばが発症のピークです。閉経すると内膜細胞からの出血もなくなるため自然と症状が落ち着くケースもあります。

子宮筋腫や子宮内膜症について、自分でできる予防法はありますか?

子宮筋腫ができやすい低酸素状態とは「血流が悪い状態」であるため、子宮筋腫ができにくい身体をつくるためには、とにかく「血流を促すこと」が大切です。子宮の血流を促すためには、まず末梢循環を整えることが重要です。そのために、足や手を冷やさないように意識し、適度な運動も取り入れましょう。逆に甘いものや間食の摂りすぎは代謝を低下させるため、控えることをおすすめします。さらに、身体の内側から冷えを防ぐためには、「ビタミンB群」を食事に取り入れるよう意識していきましょう。

そこで、おすすめの食材は「きのこ」です。例えば、きのこに含まれるナイアシン(ビタミンB3)は血行を促す働きがあり、また、ビタミンB1は糖質の代謝を促し、エネルギーと共に熱をつくるため、身体を温めるのに役立ちます。

子宮内膜症の予防についてはいかがでしょうか?月経の逆流そのものは防げないように思いますが…。

確かに月経血の逆流は完全に防ぐことはできませんが、血流を促すことや身体を温めることで子宮周辺の血流を改善し逆流を防ぐ効果があると考えられています。子宮筋腫と同様に、手足を冷やさない、身体を温める食材を積極的に摂取する、適度な運動を心がけることなどを意識するとよいでしょう。

また、先ほどもお伝えしたようにストレスは免疫力の低下を引き起こすため、日頃からストレスを減らし免疫力を維持しておくことも大切です。ストレスも食事で緩和することができるため、ストレスケアに役立つ食材を積極的に摂り入れていきましょう。

きのこには、ストレスを緩和する3つの成分「GABA」「オルニチン」「エルゴチオネイン」も含まれるため、日常的に摂り入れることでストレスケアをサポートします。さらに、きのこには全身の免疫機能を司る「腸」を整える食物繊維や、免疫細胞に働きかけるβグルカンなども含まれており、免疫維持を助ける食材のため、ぜひ日々の食事に取り入れてほしいと思います。

さらに、子宮内膜症の予防には「月経困難症」を放置しないことも重要です。月経困難症は子宮内膜症の手前の段階とも言えますから、ピルによる治療を早めに行うことが、子宮内膜症の予防にもつながりますよ。

出産後も産婦人科の受診が大切

子宮筋腫や子宮内膜症は、閉経後には何もしなくてもよいのでしょうか?

基本的に、子宮内膜症は閉経すれば自然と症状が出なくなります。また子宮筋腫も、閉経後には自然と小さくなり、症状が落ち着く方がほとんどです。
ただし、筋腫が大きい人の場合は、筋腫が萎縮していく過程で感染や炎症を起こす「変性(へんせい)」という現象が起こることがあります。閉経後に変性する人は200人に1人程度と言われますが、妊娠中に変性を起こす人は10人に1人とリスクが高まるため、注意が必要です。

妊娠中に変性が起こった場合には手術はできないため、抗生物質を使ったり、子宮の収縮を抑える薬を使ったりして症状を緩和するしかありません。そのため、将来妊娠を考えている場合には、症状がなくても筋腫摘出の手術を勧めることもあります。また子宮筋腫が原因で不妊症や流産を引き起こすこともありその場合は手術を勧めます。

最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。

出産後は、「もう産婦人科は関係ない」と思って受診されない方も多いと思います。しかし、20代後半から40代の子育て世代こそ、子宮筋腫や子宮内膜症が増える年代。年に1回、少なくとも2年に1回は産婦人科で子宮の状態をチェックするようにしましょう。
また、月経での出血量が増えた、月経痛が強くなったなどの変化は、様々な病気のリスクにつながるため放置しないでください。診察自体は痛みを伴うものではありませんから、ぜひ気軽に受診していただきたいですね。

子育て世代は、どうしても自分のことを後回しにしてしまい、栄養バランスや運動不足にもなりがちだと思います。しかし食事や運動、睡眠などをおろそかにすることは、女性特有の病気である子宮筋腫や子宮内膜症が悪化する要因になります。
毎日の食事や生活習慣を整えることが子宮筋腫や子宮内膜症の予防につながると意識し、忙しい日々の中でも自分を大切に、毎日を過ごしていきましょう。

profile

金山 尚裕(かなやま なおひろ)

浜松医科大学 名誉教授/静岡医療科学専門大学校 学校長
日本産科婦人科学会 名誉会員/日本周産期・新生児医学会 監事・名誉会員/日本生殖医学会 功労会員/日本分娩研究会 理事長/日本胎盤学会名誉会員/日本妊娠高血圧学会名誉会員