骨粗しょう症を防ぐカギは“女性ホルモン”にあり!今日からできる骨ケア習慣
2025.11.10
「女性の健康と一生」をテーマに、女性特有の身体の変化やその対策について、食事のポイントと共に毎月様々な話題をお届けする本コーナー。
今回は、「女性ホルモンと骨」をテーマに骨粗しょう症のリスクや、健康な骨づくりをサポートする食事のポイントについてご紹介します。
女性の身体は、年齢とともに変化していきます。その中でも「女性ホルモン」は骨の健康を支える大事な役割を担っています。
そのため、更年期以降の女性は、女性ホルモンが急激に減少することで、骨密度が低下するリスクを抱えています。
「女性ホルモンと骨の関係をきちんと知りたい」「自分も骨密度を意識した方がいいの?」「食事や生活習慣で骨粗しょう症を予防できるのかな?」などといった不安や疑問を持っている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、産婦人科医で浜松医科大学名誉教授の金山先生に、女性ホルモンと骨の関係や、骨密度を意識してほしい人の特徴、そして骨粗しょう症予防のために摂りたい栄養素などをお聞きしました。
INDEX
女性ホルモンと骨の関係

骨の形成に女性ホルモンはどう関係しているのでしょうか?
女性ホルモンは、骨密度や骨量の維持に大切な役割を持っています。骨には骨をつくる「骨芽細胞」と古い骨を壊す「破骨細胞」という2つの細胞があります。
女性ホルモンには、骨をつくる骨芽細胞を活性化させ、反対に骨を壊す破骨細胞を抑制する働きがあるため、骨量をしっかりと維持することにつながります。
しかし、閉経を迎えると、エストロゲン(女性ホルモン)の分泌が急激に減少します。すると、骨芽細胞の機能が低下してしまい、骨量が減少しやすくなるのです。
骨量が減っていく状態を放置したまま閉経から5~10年ほど経ってしまうと、60~70代頃には骨がスカスカの状態である「骨粗しょう症」を発症しやすくなります。その結果、脊柱(背骨)の骨折や変形性関節症、大腿骨頸部(太ももの付け根)の骨折など、さまざまな箇所の骨がもろくなってしまいます。
特に大腿骨頸部骨折は、立てなくなることも多く、健康寿命を短くしてしまう可能性もありますので注意したいですね。更年期以降は女性ホルモンの変化を理解し、早めの骨ケアを意識するようにしましょう。
エストロゲンが減少してくると、骨密度の低下から骨折しやすくなるのですね。
他にもエストロゲンは骨密度だけでなく、関節にも関係しています。エストロゲンが減ると関節を包んでいる「滑膜(かつまく)」の機能が低下し関節の動きが悪くなることで炎症が起こります。
代表的なのは、50代前半に多い「ヘバーデン結節」です。
手の関節が痛む症状で、エストロゲンの減少によって関節に炎症が起こることが原因とされています。特に女性は手を使うことが多いので、手の関節痛が発症しやすいのでしょう。
その他にも最近では、女性ホルモンが顔の骨にも影響を与えているのではといわれています。例えば頬骨の骨量が減ることで、ほうれい線が深くなったり、顔全体が下がった印象になったりします。
つまり、加齢による変化は皮膚だけでなく、骨(頬骨や胸骨など)の骨量低下も関係しているのです。
痩せている人は早めに「骨密度」を意識して
骨密度や骨折など、骨に関して意識した方がよい年代は、女性ホルモンが減少する更年期以降でしょうか?
更年期から閉経にあたる年代の40代後半~50代の方は特に骨の健康を意識した方が良いと思います。この年代でエストロゲンを適切に補うと、骨量を増やすことができるためです。
一方で、60代になると、すでに骨量がかなり減っているケースも少なくありません。
そのため、50代のうちから骨量が減らないように対策を始めることが大切です。必要に応じて、医師と相談しながら女性ホルモンの補充療法も検討するのもよいかもしれませんね。
骨密度や骨折など、骨に関して意識した方がよい年代は、女性ホルモンが減少する更年期以降でしょうか?
いいえ、20~40代でも特に痩せている人は気をつけてほしいと思います。
体脂肪が少ないと、エストロゲンの量も減少しがちです。10代の頃から痩せている人は、骨密度も低い傾向があるのです。
また、産後は急激にエストロゲンが減るうえ、授乳によって骨密度を維持するのに必要な栄養素が外へ出ていってしまいます。そのため産後1年以内は、骨密度を意識した方がよいでしょう。
更年期前後の方は産婦人科での検査がおすすめ

更年期以降の方や痩せている方、産後の方は骨密度を意識してほしいとのことでした。では、骨密度はどのように調べたらよいのでしょうか?
検診や人間ドックなどで希望をすれば、骨密度を測ることができます。また、整形外科や産婦人科で測定してもらう方法もありますね。
40代後半~50代の方で、整形外科にて骨密度が少ないことがわかった場合、そのまま整形外科での治療に進むことが一般的です。
しかし、更年期前後の年代であれば、産婦人科で検査してもらうことをおすすめします。産婦人科では、女性ホルモンを補うことができ骨量が増やせるだけでなく、血圧や筋肉なども含めて数値を改善できるかもしれません。
検診以外で骨密度の測定をしたい場合は、産婦人科で検査をするのがおすすめなのですね。
整形外科で検査をしても問題はありませんが、「骨密度は女性ホルモンで改善できるかもしれない」ということは知っておいていただきたいですね。
50代で骨量の治療を受けたい方は、女性ホルモン療法も検討しても良いと思います。
また、骨密度の検査はあまり知られていませんが、50代以降の場合は公的な検診でもオプションに骨密度測定も入っていることがありますよ。ぜひ確認してみてくださいね。
骨づくりに欠かせない「カルシウム」と「ビタミンD」の働きとは

続いて、閉経などでエストロゲンが減少しても骨折をしないためには、どのようなことを意識して日常生活を送るのがよいでしょうか?
骨の形成を支えるうえで重要なのは「カルシウム」と「ビタミンD」を意識して摂取することです。
カルシウムは骨の材料となる栄養素で、牛乳やヨーグルト、チーズ、小魚などに豊富に含まれています。
また、ビタミンDはカルシウムの“サポート役”として、腸でカルシウムの吸収を促進します。ビタミンDは限られた食材にしか含まれていませんが、中でも効率的にビタミンDを摂るのにおすすめなのが「きのこ」です。きのこはどんな料理にも合わせやすいため、カルシウムの豊富な食材と合わせて一緒に積極的に摂取してほしいと思います。
一方、ビタミンDは日光を浴びることでも生成されるため、1日15分ほど日光に当たることも有効です。
しかし、近年は紫外線対策を行う方が増えており、ビタミンDが不足傾向にあるといわれているため、食事から意識的に摂取することが大切です。
また、産後の女性は母乳でカルシウムが失われてしまうため、特にカルシウム不足になりやすい傾向があります。カルシウムは食事から摂るのが理想ですが、必要に応じてサプリメントを併用するのもよいでしょう。
さらに、女性ホルモンに似た作用を持つ食品、たとえば大豆食品なども積極的に摂ることをおすすめします。
他にも食事以外で意識できることはありますか?
骨密度を保つためには、適度な筋肉と脂肪を維持することが大切なため、運動を取り入れることも意識するようにしましょう。ウォーキングのような有酸素運動も良いですが、筋トレのように筋肉を使う運動も取り入れて、「常に骨にある程度の負荷をかけておくこと」を意識できると良いですね。
また、脂肪が少なすぎると女性ホルモンが作りづらくなるため、骨が弱まるリスクも高まります。痩せている長距離ランナーや新体操の選手が若くても骨折しやすいのは、体脂肪が少ないためにエストロゲンの基礎値が下がってしまうからです。そのため、標準体重を維持することが、骨量を維持することにもつながりますよ。
ここまでお伝えした通り、女性の健康寿命を短くする最大の要因は、骨量低下による骨折だといわれています。特に閉経後は一度検査をして骨量を調べることがおすすめです。そして、骨密度が低下している方は、女性ホルモン補充療法を検討してみるのもよいと思います。
骨量を減らさないよう、適切な食事や運動、そして女性ホルモンのバランスを意識して、長く健康な日々を送れるよう対策していきましょう。
profile
浜松医科大学 名誉教授/静岡医療科学専門大学校 学校長
日本産科婦人科学会 名誉会員/日本周産期・新生児医学会 監事・名誉会員/日本生殖医学会 功労会員/日本分娩研究会 理事長/日本胎盤学会名誉会員/日本妊娠高血圧学会名誉会員


