女性特有のがん、予防するには?産婦人科医が伝える、がんの種類や備え方
2025.09.16
「女性の健康と一生」をテーマに、女性特有の身体の変化やその対策について、食事のポイントと共に毎月さまざまな話題をお届けする本コーナー。
今回は、女性が注意したい「がん」の種類や、食事や生活習慣の工夫でできる予防法についてご紹介します。
現在、生涯のうちにがんと診断される人は2人に1人といわれています。なかでも女性の場合、乳がんや子宮頸がん、卵巣がんなど、女性特有のがんが上位を占めています。
「身近に乳がんになった人がいるから不安だけど、セルフチェックできるのかな?」「どんな検診を受けたらいいんだろう?」「子宮頸がんと子宮体がんは、どう違うの?」
女性特有のがんに対してこのような不安や疑問を感じている方も少なくないと思います。
そこで今回は、産婦人科医で浜松医科大学名誉教授の金山先生に、女性特有のがんの種類やかかりやすい年齢、セルフチェックの方法、そして予防のためにできる食事や生活習慣のポイントなどをお聞きしました。
INDEX
- 女性特有のがんの種類とかかりやすい年齢
- 不正出血があれば必ず受診を
- 知って備える「がんになりやすい人の特徴」
- 生活習慣病の予防が、がん予防につながる
- 身体の変化を見逃さないで!更年期前後は早期受診を意識しよう
女性特有のがんの種類とかかりやすい年齢
まずは、女性特有のがんにはどのような種類があるのか教えてください。
女性特有のがんで罹患率が一番高いのは、乳がんです。次いで、子宮がん(子宮頸がんと子宮体がん)、卵巣がんと続きます。もちろん、それ以外にも膣や外陰部のがんなどもありますが、発症数はそれほど多くはありません。
それぞれのがんに発症しやすい年齢はありますか?
子宮頸がんは、20代〜40代前半が罹患しやすいといわれており、乳がんは更年期にあたる40代半ば〜50代半ばがピークになります。卵巣がんや子宮体がんはそれより少し遅く、50代~60代前半に多いですね。
つまり、子宮頸がんは比較的若い世代に多いがん、乳がんや卵巣がん、子宮体がんは更年期以降に増えるがんだといえます。
それを踏まえて、40歳を超えたら年に1回は乳がん検診などの検診を受ける意識を持つことが大切です。
40代〜50代の女性は、仕事や子育てに忙しく、自分の身体に目を向ける余裕がない方も多いかもしれません。
そうですね。しかし、更年期の前後である40代〜50代の女性の身体は、女性ホルモンが急激に減少するため、細胞が機能失調を起こしやすくなり、細胞ががん化するリスクも高まると言われています。「女性ホルモンの減少に対して身体の細胞がびっくりして、がん化してしまう」というイメージを持っていただくと分かりやすいかもしれません。女性ホルモンが安定して分泌されている時期には守られていた細胞も、女性ホルモンが減少することで細胞が機能失調を起こしやすくなるのです。
そのため、仕事や子育てに忙しい方も、「更年期前後に自分の身体を気にかけるかどうかが、その後の健康や健康寿命に大きく影響するのだ」と意識をしてほしいと思います。
不正出血があれば必ず受診を

続いて、がんの症状についてですが、受診の目安になるようなサインがあれば教えてください。
子宮頸がん・子宮体がんともに、初期症状で一番多いのは「不正出血」です。月経以外で出血があったときには、必ず産婦人科を受診するようにしましょう。
しかし、初期の子宮頸がんの多くは無症状です。検診を受けなければ、「がん」だとわからないことが少なくないため、定期検診を必ず受けましょう。
一方で、残念ながら子宮体がんは定期的な検診制度がありません。そのため、かかりつけの婦人科がない方は発見が遅れやすいのが現状です。子宮体がんでは子宮内膜が厚くなりますので、40代以降の女性は1年に1回程度、子宮内膜の厚さを調べる超音波検査を受けておくことをおすすめします。
初期の症状がわかりにくいがんは怖いですね。
子宮頸がんのほかに、卵巣がんも初期症状がわかりにくいと言われています。腹部の張りや痛み、短期間での体重の減少など、症状を自覚したときにはがんが進行していることも多いのです。さらに、子宮体がんと同様に卵巣がんも、定期的な検診制度がないため、超音波検査などを自発的に受けるようにしましょう。
自発的な検査が大切なのですね。一方、一番罹患率の高い乳がんですが、自分でチェックできることはありますか?
自己触診で「しこり」があるかどうかを確認することができます。
乳がんのしこりは、乳房を4分割したときの「外側上部」、つまり脇の下に近い部分にできやすいと言われています。中でも一番できやすいのは左の外側上部、その次に多いのは右の外側上部、そして上内側と続きます。
そのため、特に乳房の外側上部は、毎日自分で触る習慣をつけることで早期発見にもつながります。
自己触診の際には指先を立てずに平らにして、やさしくタッチするように触ると、しこりができているかどうかがわかりやすいですよ。
知って備える「がんになりやすい人の特徴」
女性特有のがんですが、かかりやすい人の特徴はあるのでしょうか?
がんの種類によって、かかりやすい人の特徴は違います。
例えば子宮体がんは、「排卵がうまく起こらなかった人(プロゲステロンが不足していた人)」、「高血圧や糖尿病といった生活習慣病の人」のいずれか、または両方に当てはまる方は、発症リスクが高いと言われています。また、乳がんは「乳腺をあまり使わなかった人」、つまり出産や授乳の経験が少なかった人がかかりやすいですね。
さらに、乳がんは子宮体がんと同じように生活習慣の影響も受けると言われています。喫煙、食生活の乱れ、運動不足などは乳がんのリスクに大きく関係するため、生活習慣を見直すことが、がん予防の第一歩にもつながりますね。
卵巣がんについてはいかがでしょうか?
卵巣がんは、子宮体がんとは違い、「排卵そのもの」がリスクの要因となります。
排卵は卵巣が破れて卵子を放出する現象ですが、排卵が毎月積み重なることで卵巣にダメージが蓄積します。それが、卵巣がんのリスクを高める可能性があるのです。
そのため、ピルを服用し排卵を抑えている方は、卵巣がんになるリスクが低くなることが明らかになっています。
ピルの服用が、がんのリスクを下げることにも役立つのですね。
ピルやホルモン補充療法は、卵巣がんだけでなく、子宮体がんや大腸がんなど、女性特有ではないがんも含めた、がんのリスクを下げることがわかっています。
ただし、乳がんだけは反対です。ホルモン療法やピルの服用は、「細胞の増殖を抑える」ブレーキの働きをする一方で、乳腺には刺激を与えてしまうのです。ホルモン療法やピルの服用は、いくつかのがんのリスクを抑えるために有効ですが、定期的な乳がん検診を必ず受けていただく必要があることを心に留めていただきたいと思います。
生活習慣病の予防が、がん予防につながる

がんを予防するために、ピルの服用やホルモン療法が有効な場合があるとお伺いしました。その他、がん予防のためにできることがあれば教えてください。
先ほどお伝えした通り、子宮体がんや乳がんは、生活習慣病によりリスクが上昇します。
特に更年期になるとホルモンバランスの急激な変化により太りやすくなるため、バランスの良い食事と適度な運動を心がけ、肥満や高血圧などの生活習慣病を防ぐことががんの予防にもつながります。
また、喫煙と過度なアルコールの摂取は様々ながんのリスクを高めるため、健康のためにも控えるようにしましょう。
さらに、免疫機能を高めることも、がん予防を含めた健康維持に有効です。免疫機能を高める栄養素のひとつとして注目されているのが「β-グルカン」です。この栄養素はきのこに豊富に含まれている成分で、腸内の免疫細胞に直接働きかける作用があるといわれています。
免疫機能にかかわる栄養素は、他にもあるのでしょうか?
食物繊維も重要ですね。健康の要とも呼ばれる「腸」には免疫細胞の約7割が存在しているため、食物繊維をしっかり摂って腸内環境を整えることが、免疫維持に役立ちます。βグルカンも食物繊維の一種ですが、きのこにはβグルカンを含めて食物繊維が豊富に含まれているため、免疫力を高めるサポートをしてくれます。また、きのこに加えてやこんにゃくやひじき、玄米、大豆製品などにも、食物繊維がたっぷり入っています。
その他きのこはうま味成分も豊富なため、料理の時につい味付けが濃くなってしまいがちな時にも役立ちます。塩分や糖分の摂り過ぎは生活習慣病にも繋がるため、日々の料理を美味しく、ヘルシーに仕上げてくれるきのこは心強いですね。
免疫力はがんだけでなく、毎日を健康に過ごすために欠かせない機能となるため、日々の食事にこれらの食材を積極的に摂り入れるようにしましょう。
身体の変化を見逃さないで!更年期前後は早期受診を意識しよう

最後に金山先生から、読者にお伝えしたいことがあれば教えてください。
産婦人科が扱うがんには、子宮頸がんと子宮体がんがあります。現在、患者数はおおよそ半々ですが、死亡率は子宮体がんが増加しています。その理由の1つは、発症が閉経後の女性に多く、普段産婦人科へ行かないために発見が遅れていることです。
子宮体がんに加えて乳がんは、65歳くらいまでは発症することがありますから、閉経後もしばらくは婦人科に通う習慣をつけていただきたいですね。
しかし、乳がん検診と子宮がん検診を両方受けられる診療所や病院はまだ多くありません。検診が別々の科に分かれていることも、女性が受診しにくい一因だと感じます。
それでも両方受診できる病院もありますから、かかりつけの産婦人科を探すときには、「乳がん検診と子宮がん検診を両方受けられるかどうか」もポイントにしていただくのがよいかもしれません。
ここまでお伝えしてきた通り、更年期前後は女性ホルモンの急激な減少により、女性の身体にはさまざまな変化が起こります。がんにかかりやすい年代と更年期が重なるのも、このためです。そのため、どんな些細な変化でも、産婦人科のかかりつけ医に相談することをおすすめします。
どの年代の女性もがんになる可能性があります。日頃からバランスの良い食事や適度な運動を心がけて、自分の身体を大切に過ごしていきましょう。
profile
浜松医科大学 名誉教授/静岡医療科学専門大学校 学校長
日本産科婦人科学会 名誉会員/日本周産期・新生児医学会 監事・名誉会員/日本生殖医学会 功労会員/日本分娩研究会 理事長/日本胎盤学会名誉会員/日本妊娠高血圧学会名誉会員