閉経後に増える病気と不調。健康寿命を守るために“今できること”
2025.08.25
「女性の健康と一生」をテーマに、女性特有の身体の変化やその対策について、食事のポイントと共に毎月さまざまな話題をお届けする本コーナー。
今回は、閉経を迎えた後の女性の身体に起こる変化と、健やかに過ごすための生活の工夫についてご紹介します。
「閉経後なんとなく不調を感じるけれど、病院にいくほどではないだろう」と放置している方も多いのではないでしょうか。しかし、閉経前後の女性の身体は、女性ホルモンの減少によりさまざまな影響があらわれ、見た目だけでなく、身体の内部に変化が生じたり、病気のリスクも高まったりする時期なのです。
そこで今回は、産婦人科医で浜松医科大学名誉教授の金山先生に、閉経後の身体に起きる変化や注意したい病気、閉経前後に生活に取り入れてほしいセルフケアについてお話を伺いました。
INDEX
見た目だけじゃない、閉経後の身体に起こる変化

まず閉経後の身体には、どのような変化が起こるのか教えてください。
わかりやすいのは、皮膚のしわやシミが目立つようになったり、脱毛が増えたりするなどの見た目の変化です。これらは女性ホルモンであるエストロゲンが急激に減ることによりあらわれます。
さらにエストロゲンの減少は、血管や骨、筋肉など身体の内部にも影響を与えます。例えば、閉経するとコレステロール値が上昇し、動脈硬化が起こりやすくなります。そのため、これまで血圧に問題がなかった女性が、閉経後に高血圧だと診断されることもあるのです。
見た目の変化は自覚しやすいと思います。でも、身体の内部の変化にはなかなか気づけないかもしれません。血圧のほか、骨や筋肉にはどのような影響が出るのですか?
エストロゲンは、骨密度や筋力を維持する働きも持っています。そのため閉経後に一気に骨密度が低下してしまうと、骨粗しょう症のリスクも高まりますね。もちろん、閉経直後に影響が出るわけではないのですが、60代以降の骨折の原因になることも少なくありません。
また、筋肉の中でも特に影響が出やすいのは、骨盤や子宮、膀胱などの臓器を支えている「骨盤底筋」です。この筋肉が減少すると、尿漏れをしやすくなったり、膀胱や子宮が腟の外に出る「骨盤臓器脱」になったりするなど、生活に支障が出る症状を引き起こすこともあるでしょう。
しかし、エストロゲンの減少による高血圧や骨粗しょう症、筋肉量の低下などは、適切な時期にエストロゲンを補充できれば予防することが可能です。閉経後に身体の内部に起こりうる変化を知り、自覚症状がなくても一度は産婦人科を受診してみてほしいと思います。
実はこんな病気も…女性ホルモンに関係する意外なリスク
その他、閉経前後に気をつけるべき病気があれば教えてください。
閉経前後に増える女性特有の病気が、「乳がん」です。女性ホルモンのバランスが崩れ、細胞の機能失調が起こりやすくなるためだという考えもあります。また、指の関節が腫れたり、変形したりして痛みを感じる「へバーデン結節」も、閉経する時期によく見られる病気です。閉経前後のへバーデン結節も、女性ホルモンの減少と密接に関係していると言われています。実際に、エストロゲンの補充で症状が緩和できるケースもありますね。
さらに、50〜60代前半までの女性で、閉経後にもしっかりと女性ホルモンの補充療法を実施していた方は、認知症になりにくかったという研究結果も出ています。閉経によって女性ホルモンが減ることは、認知機能の低下にもつながっていると言えるわけです。
認知症とも関係しているとは驚きました。閉経後の女性ホルモンの補充は、女性の健康のために大切なのですね。
そうですね。しかし、閉経後10年以上たったあとに女性ホルモンを補充しても、あまり意味はありません。60〜70代で「血圧が上がった」「認知機能が落ちた」という方は、慢性疾患の領域に入ってしまうからです。病気の予防をするためにも、閉経前後である40〜50代から、意識して女性ホルモンの低下を補うようにするとよいでしょう。それが、60代以降の健康寿命に直結するため、かかりつけの産婦人科を持ち、ぜひ定期的に受診をしてほしいと思います。
骨や血管の健康を守る栄養素とは?

閉経後の身体の変化や病気発症のリスクには、女性ホルモンの補充が有効だとお聞きしました。一方で、女性ホルモンを補充しないという選択をしたい方は、どのような対策ができるのでしょうか?
まずは食事で必要な栄養素を補給しましょう。例えば、エストロゲンが減少すると、コレステロール値が上がり血管が硬化しやすくなります。そのため、血液の源である赤血球を作り、血管の若返りに貢献する「葉酸」は、積極的に摂取してほしい栄養素の一つで、エリンギやひらたけなどのきのこ類、ブロッコリー、枝豆などに多く含まれています。
さらに、きのこに豊富な食物繊維は、コレステロールの排出を助けるともいわれているので、ぜひ積極的に食事に取り入れてほしいですね。
また、ビタミンDは腸でのカルシウムの吸収を助け、骨の形成を促進します。閉経後の急激な骨密度の低下を抑えるためにも、ビタミンDの豊富なきのこがおすすめです。あわせて、骨の健康維持に不可欠なカルシウムやマグネシウムも取るようにしましょう。カルシウムは牛乳やチーズ、小魚など、マグネシウムは豆類やナッツ類、海藻などにたくさん含まれますよ。
見た目の変化も気になる方は多いかもしれません。アンチエイジングに効果的な栄養素があれば教えてください。
女性ホルモンに似た働きをするイソフラボンは、意識をして摂取するのがおすすめですね。また、見た目の変化を予防する栄養素に、エルゴチオネインという抗酸化物質が注目されています。肌をきれいに保つなど、アンチエイジングに効果的だと言われているのです。エルゴチオネインは、きのこ類や一部の細菌のみが合成できる成分なので、様々な栄養素を含むきのこをぜひ、毎日の食事に取り入れていただければと思います。
医師への相談と日々の習慣が、未来の健康をつくる

閉経後、急激な身体の変化を防ぐために、栄養素の補給以外にできることはありますか?
女性ホルモンの低下に伴う筋肉量の減少を予防するためには、適度な筋トレが効果的です。膝と膝をくっつけて座るようにするなど、日々の生活に取り入れやすいトレーニングを習慣化してみてください。
さらに、身体を冷やさないように心がけることも大切です。特に足の冷えは、子宮や卵巣、腸などの内臓機能の低下にもつながります。女性ホルモンが減少し、不調に陥りやすい閉経前後の時期こそ、足を冷やさないよう気を付けてほしいと思います。
ここまでお伝えしてきた通り、特に骨や筋肉、血圧など身体の内部の変化は、自覚するまでに時間がかかることもあるでしょう。
ですが、ホルモン補充療法や食事、筋トレ、身体を冷やさない工夫など、できる対策はたくさんあります。閉経前後のタイミングでかかりつけの産婦人科に相談することは、将来の健康寿命を守るうえでとても重要です。不安を一人で抱え込まず、まずは医師に相談してみてください。閉経という節目を前向きにとらえ、心と身体にやさしい習慣を取り入れながら、自分らしく健やかな毎日を過ごしていきましょう。
profile
浜松医科大学 名誉教授/静岡医療科学専門大学校 学校長
日本産科婦人科学会 名誉会員/日本周産期・新生児医学会 監事・名誉会員/日本生殖医学会 功労会員/日本分娩研究会 理事長/日本胎盤学会名誉会員/日本妊娠高血圧学会名誉会員