「無月経」や「月経困難症」はなぜ起こる?月経異常のリスクと日常生活から改善する方法
2025.06.09
「女性の健康と一生」をテーマに、女性特有の身体の変化やその対策について、食事のポイントと共に毎月様々な話題をお届けする本コーナー。
今回は、月経異常のひとつである「無月経」や「月経困難症」をテーマにお届けします。
数か月月経がこない「無月経」や、月経期間中のひどい腹痛・腰痛などの「月経困難症」は、よくあることだと放置している人も少なくないかもしれません。しかし、放っておくと将来にわたって、女性の健康に大きな影響を及ぼしかねないのです。
そこで今回は、産婦人科医で浜松医科大学名誉教授の金山先生に、無月経や月経困難症などの月経異常の仕組みや、それらが女性の身体に与えるリスク、月経異常を防ぐために食事や日常生活でできることについてお聞きしました。
INDEX
「無月経」とは?

まず、月経異常のひとつである「無月経」とは、どのような状態なのでしょうか?
無月経には、18歳以上になっても一度も月経がない「原発性無月経」と、妊娠以外で月経が3か月以上ない「続発性無月経」とがあります。今回は後者の「続発性無月経」について解説します。
正常な月経周期は25日〜38日で、その範囲から外れると月経不順とみなされます。つまり3か月以上月経のない続発性無月経は、月経不順のなかでも最も症状が重い状態だといえるでしょう。また、月経周期が40日以上の人は、月経があっても排卵していないことが多いため、無月経の人は無排卵の可能性が非常に高いのです。
そして排卵が起こらず黄体ホルモンが出ないと、子宮内膜が正常に剥がれずに厚くなっていきます。その内膜の厚さを維持できなくなり出血するのが、不正出血の正体です。
月経があるなら、排卵もあるのだろうと思っていましたが、そうではないのですね。
月経周期が正常の範囲内で安定している場合は、「月経がある」=「排卵している」と考えても、それほど問題はないと思います。ところが月経不順の場合は、月経があっても排卵はないことが珍しくありません。もちろん、排卵がなければ妊娠はできませんから、「月経があるか」よりも、「排卵しているか」を重視しなければなりませんね。
月経不順はよくあること、と放置してしまう人が多いかもしれません。
確かに、月経不順は「よくあること」と捉えてしまいがちですが、受診をしてほしい症状のひとつです。先ほどもお伝えした通り、特に月経不順で不正出血が見られるときは要注意です。
受診の前に、まずはご自宅で排卵の有無や月経周期が安定しているかを知りたい方は、基礎体温をつけるとよいでしょう。基礎体温とは、朝目覚めてすぐ、身体を動かす前に測る体温のことです。安定した月経周期の人であれば、排卵までの10日以上は低温期となり、排卵後には0.5℃ほど体温が上昇する高温期が10日以上続きます。そのような体温変化が見られたときには、排卵していると考えられますよ。
美容や健康への影響も!無月経の放置で起こるリスク

無月経(無排卵)だとどのような影響があるのでしょうか?
女性ホルモンのエストロゲンがなくなることにより、様々な影響がでてきます。女性が歳をとることで見られる変化とイコールだと考えてもらうとわかりやすいかもしれません。
具体的には、髪の毛が細くなったり、白髪になったりします。脱毛に悩む方も多いですね。肌もハリがなくなったり、逆にシミやシワは増えたりもしますね。また、女性ホルモンによって抑えられている、高血圧や動脈硬化、骨粗しょう症、認知症のリスクも上がってしまいます。
つまり女性ホルモンは、女性の健康全般に深く関わっているといえますよね。そのため、妊娠を希望するかどうかに関わらず、無月経を放置することは自分の将来にとって大きなリスクになるのです。
「月経困難症」の症状とその裏に潜む病気に注意

続いて、月経異常としてよく耳にする「月経困難症」についても教えてください。
「月経困難症」は、月経に伴ってあらわれる症状が重い状態をいいます。症状は、一般的に月経痛と呼ばれる下腹部の痛みや腰痛などを指します。鎮痛剤を服用しないで、または1日程度の服用で月経期間を過ごせる人は、問題ありません。逆にいうと、鎮痛剤を2日以上服用しないと月経期間を乗り切れない人は、月経困難症だと考えてよいでしょう。
さらに、2〜3日の鎮痛剤では対処できないほどの腹痛や腰痛などを感じる人は、「子宮内膜症」の疑いがあります。なかでも月経痛が年々強くなっている人は、子宮内膜症の可能性が高いですね。
「子宮内膜症」も耳にすることはありますが、具体的にどのような状態なのでしょうか?
まず月経は、子宮内膜が剥がれ落ちて、経血と一緒に膣から排出される仕組みです。そして子宮内膜症は、膣から排出されるはずの子宮内膜の細胞の一部が、卵管を通って卵巣や腹膜(お腹)に移動し、定着してしまうことで発症します。
その子宮内膜細胞が月経周期に伴って増殖すると、毎月の月経時に卵巣や腹膜の中で出血が起き、「お腹が痛い」「卵巣が痛い」「肛門が痛い」など、子宮以外の場所でも痛みを感じるようになります。これが、子宮内膜症の症状です。
「子宮内膜症」も、月経痛などと同様に、月経期間に症状があらわれると考えてよいのでしょうか?
子宮内膜症は進行すると、月経期間以外にも症状が出ることがあります。常に下腹部痛や腰痛を感じたり、排便時や性交時に痛みがあったりする場合は、子宮内膜症を疑わなければいけません。
また、子宮内膜が他の場所に入り込む病気には、「子宮腺筋症」もあります。これは子宮内膜の一部が子宮の筋肉の中に入ってしまうことで発症し、痛みは子宮内膜症よりも激しいといわれています。これらの病気を早く発見するためにも、月経困難症だと自覚した人は、ぜひ早めに受診してください。
「冷え対策」と「栄養補給」で月経異常を改善
無月経や月経困難症を改善するために、日常から意識するとよいことを教えてください。
月経を正常に保つためには、末梢循環の改善が大切です。特に月経期間に起こる月経痛や腰痛は、子宮の収縮によるものですから、血流が悪くなると痛みが強くなります。サンダルを履いたり、エアコンの風を直接浴びたりするだけでも、症状は悪化しやすくなるのです。反対に、身体を温めるだけで鎮痛剤を服用する回数が減ったという話もよく聞きますから、なるべく身体を冷やさないようにしましょう。

また、身体の内側から冷えを防ぐためには、「ビタミンB群」を意識して摂取することがおすすめです。例えば、きのこに含まれるナイアシン(ビタミンB3)は血行を促進し、ビタミンB1やビタミンB2は代謝を高めて身体を温めてくれますから、ぜひ食事に取り入れてください。さらに、きのこに豊富なビタミンB6は、タンパク質を効率よく代謝して筋肉の増加をサポートします。筋肉量が増えると基礎代謝も上がりますから、冷えの改善にもつながりますよ。
冷え対策が、月経異常を防ぐことに繋がるのですね。
加えて、標準体重の維持も心がけることができるといいですね。例えば、痩せすぎていると、女性ホルモンが作られにくいため、排卵が起きにくくなってしまいます。逆に肥満だと、無排卵の原因となる「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」を発症するリスクが高まるので標準体重を意識することが大切です。もちろんすでに標準体重の人も、生活習慣が整っていないと無排卵になりやすいため、バランスのとれた食事や、適度な運動、十分な睡眠も意識してほしいと思います。
冷え対策や栄養摂取など、生活習慣の改善だけで月経異常が解消できない場合は、漢方薬やピルを飲むのも有効な手段です。最近では、血栓症のリスクがほとんどみられない「アリッサ」というピルも登場しました。興味がある人は、病院の先生に相談してもよいかもしれませんね。

ここまでお伝えしてきた通り、無月経や月経困難症は、女性の健康に大きな影響を与えるリスクがあります。一方で、冷え対策や日々の食事を見直すなど生活習慣を整えることで、症状を改善できることも多いのです。ぜひ、月経異常を「よくあることだ」と放置せず、自身の症状を理解したうえで、しっかり対策をとっていきましょう。
profile
浜松医科大学 名誉教授/静岡医療科学専門大学校 学校長
日本産科婦人科学会 名誉会員/日本周産期・新生児医学会 監事・名誉会員/日本生殖医学会 功労会員/日本分娩研究会 理事長/日本胎盤学会名誉会員/日本妊娠高血圧学会名誉会員