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女性の健康と一生

月経周期で変わる身体と心!今日からできる、栄養で整えるセルフケア

2025.05.12
月経周期で変わる身体と心!今日からできる、栄養で整えるセルフケア

「女性の健康と一生」をテーマに、女性特有の身体の変化やその対策について、食事のポイントと共に毎月様々な話題をお届けする本コーナー。
今回は、女性が30年以上もの間付き合うこととなる「月経」とその周期をテーマにお届けします。

月経が始まってから、次の月経が開始される前日までの約1ヶ月間を「月経周期」と言います。月経周期の変化の特徴や、それぞれの期間で必要な栄養素を知っておくことは、月経周期による不調への対策をとるうえでも大切です。

そこで今回は、産婦人科医で浜松医科大学名誉教授の金山先生に、月経周期によって起こる身体の変化や、周期に合わせて摂りたい食材、月経周期の乱れによるリスクについてお聞きしました。

INDEX

月経周期は「妊娠のための仕組み」

まずは、月経周期はどのような流れで起こっているのかを教えてください。

そもそも月経周期とは、妊娠するために子宮内膜が厚くなり、妊娠しなければ剥がれてまた次の月の妊娠に備えるというサイクルを指します。つまり、月経は子宮内膜の剥離現象であり、月経周期は「妊娠のための仕組み」とも言えますね。

具体的には、月経が終わると卵胞ホルモン(以下、エストロゲン)が分泌され、子宮内膜がだんだん厚くなります。そして、月経から14日目〜16日目にエストロゲンの量がピークになると、脳から排卵を促すホルモンが出て、排卵が起こります。排卵後の卵胞は「黄体」という組織になり、この黄体を維持するために黄体ホルモン(以下、プロゲステロン)が出てくるのです。

黄体の寿命は約2週間のため、2週間の間に受精卵が子宮に着床しなければ(妊娠しなければ)、黄体は自然に消えてしまいます。黄体が消えると同時にエストロゲンとプロゲステロンも減っていき、徐々に厚くなっていた子宮内膜も剥がれます。このサイクルが月経周期です。

月経周期によって、身体に起こる変化もお伺いできますか?

まず、月経初日から排卵までの2週間は、アクセルの働きをするエストロゲンが多く分泌されるので、体調は安定しやすい時期です。特に、月経が終了してから排卵までの期間は、調子が良いと感じる人が多いのではないでしょうか。

一方で排卵後の2週間は、ブレーキの働きをするプロゲステロンが増えるため、体調やメンタルが不安定になりやすい時期です。肌が荒れる、眠気が強くなる、涙もろくなったりイライラしたりするといった症状が出る方が多いですね。腸の動きも抑制されますから、便秘に悩む方も少なくありません。

また、プロゲステロンの作用が強く出すぎると、「月経前症候群(PMS)」と呼ばれる状態になります。月経前の体調不良に悩んでいる方は、不調を軽減する栄養素を摂取したりピルを飲んだりするなど、排卵後の2週間も過ごしやすくする工夫をするとよいかもしれません。

周期ごとに摂り入れたい栄養素とは?

排卵後の不調を軽減するために、どのような栄養素を意識して摂取すると良いのでしょうか?

プロゲステロンは、身体をブレーキモードにする作用があります。そのため、ブレーキがかかりすぎないよう、身体の循環を良くする栄養素を意識して摂ることが大切です。例えば、月経前に便秘になりやすい方は、食物繊維の多い食材を取り入れると良いと思います。代表的なものには、根菜や海藻、きのこがあります。特にきのこには、便のカサを増やして体内の老廃物を排出する「不溶性食物繊維」と、「善玉菌」のエサとなって善玉菌を増やす「水溶性食物繊維」がバランスよく含まれているため、腸内環境を整える効果が高いので積極的に摂取してほしいですね。

またプロゲステロンは、脳内の幸福ホルモンである「エンドルフィン」という物質を減らす働きも持ちます。それが原因となり、月経前にはメンタルが不安定になる方が多いのです。ですからストレスを和らげたり、リラックスを促したりする働きがある「GABA(ギャバ)」を意識して摂取するのもおすすめです。GABAは体内で作られるアミノ酸の一種で、きのこ類をはじめ、トマトやかぼちゃなどの野菜にも多く含まれていますよ。

「脳腸相関」という言葉があるように、腸の状態はストレスを感じやすくなるなどのメンタル面にも関わりが深いので、その点からも、食物繊維やGABAの豊富なきのこは役立つ食材といえますね。

月経初日から排卵までの2週間は、比較的体調が安定する人が多いのですね。その時期に取った方がよい食材はあるのでしょうか?

排卵直前の卵巣を顕微鏡で観察すると、血液循環がとても活発になっています。つまり、血のめぐりが良くなければ、排卵しにくいとも言えるのです。そのため、特に手足の冷えが気になる方は、末梢循環の改善に役立つ食材を摂取するとよいでしょう。例えばきのこは、血行を良くする効果を持つ「ナイアシン」や、糖質を代謝することで熱の産生を助ける「ビタミンB1」を豊富に含んでいます。ぜひ日々の食事にも取り入れてみてください。

また、エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンは、コレステロールから作られます。お肉など脂質の多い食材に含まれる「コレステロール」は動脈硬化を引き起こすなど悪いイメージが強いですが、女性ホルモン生成には欠かせない物質なのです。もちろん摂取のしすぎはいけませんが、コレステロールも女性ホルモンを生成するために必要なのだと意識しておくとよいかもしれませんね。

無排卵の主な原因は「PCOS」と「痩せ」

排卵直前の血液循環が悪いと、無排卵になる可能性があるとお伺いしました。その他に、無排卵になる原因には、どのようなものがあるのでしょうか?

20代〜30代の女性が無排卵になる原因には、大きく2つあります。1つ目は、多嚢胞性卵巣症候群(以下、PCOS)です。PCOSは月経周期が不定期になるホルモン疾患で、欠食や運動不足、冷えなどの生活習慣の乱れが原因で起こると考えられています。女性の7〜8%に見られ、無排卵の原因として最も多い病気です。

2つ目は、体重が減りすぎることによってエストロゲンが不足し、排卵に障害が出てしまう「体重減少性排卵障害」です。長距離ランナーや新体操選手など、体脂肪が極端に少ない女性に起こりやすい病気です。目安としてはBMIが18.5未満、具体的には身長160cmだと47kg以下、155cmだと43kg以下くらいの方は、「体重減少性排卵障害」になりやすいと言われています。

BMIが18.5未満の「痩せ」は、排卵障害や不妊だけでなく、「低出生体重児」が生まれるリスクにも繋がります。低出生体重児は将来、高血圧や糖尿病といった生活習慣病になりやすいという研究結果も出ています。ですから「痩せすぎていること」は、自分自身の健康だけでなく、将来生まれてくる子どもの健康にも影響があることを知っておいていただきたいですね。

PCOSや体重減少性排卵障害を防ぐために、意識するとよいことを教えてください。

とにかく生活習慣を整えることが大切です。まずは、三食バランスよく食べること、適度に運動をすること、しっかり睡眠をとることを心がけましょう。ただ、痩せ体質の方は「食べても太らない」と悩んでいる方も少なくありませんよね。そのような場合は、筋肉をつけることがカギになります。筋肉を増やすにはタンパク質の摂取が重要ですから、筋トレ後にタンパク質を取ることを意識するとよいでしょう。

月経周期が安定しない人は「基礎体温」をつけてみよう

無排卵の原因についてお聞きしましたが、排卵があるかどうか自覚する方法はあるのでしょうか?

月経があっても、「月経周期」が安定していない方は無排卵の可能性があります。28日〜31日くらいの月経周期で安定している方は、排卵していると考えて問題ありません。

しかし、25〜35日くらいの周期から外れる方や月経周期がバラバラの方は、排卵がうまくいっていないかもしれません。「月経が来ているから妊娠できる」と思っている人も多いですが、実は排卵していなければ妊娠できないため、無排卵の可能性は見過ごしてはならないのです。

月経周期が安定していない方は、一度検査をした方がよいのでしょうか?

月経周期が月によって大きくずれている方は、一度「基礎体温」をつけてみることをおすすめします。基礎体温が低温期から高温期に移行すれば、排卵しているサインです。もしも変化がない場合は、無排卵の可能性があるため、念のために受診をした方がよいでしょう。また、周期が安定していても、3ヶ月に1回月経がない人なども、基礎体温をつけてみてほしいと思います。

最近は、ドラッグストアでも「排卵日予測キット」や「排卵チェッカー」が売られています。排卵を調べることができるおりものシートなどもありますので、基礎体温を毎日つけるのが難しいのであれば、そのようなものを活用してみるのもよいかもしれませんね。

ここまでお伝えしてきた通り、月経周期は女性の身体と心にさまざまな変化をもたらします。不調に悩まされることもありますが、周期に合わせた栄養素を意識し、日々の食事や生活習慣を整えることで、より快適な毎日を送ることができます。ご自身の身体の月経周期を正しく理解し、上手に向き合いながら、心身の健康づくりに役立てていきましょう。

profile

金山 尚裕(かなやま なおひろ)

浜松医科大学 名誉教授/静岡医療科学専門大学校 学校長
日本産科婦人科学会 名誉会員/日本周産期・新生児医学会 監事・名誉会員/日本生殖医学会 功労会員/日本分娩研究会 理事長/日本胎盤学会名誉会員/日本妊娠高血圧学会名誉会員