PAGETOP
研究員の研究日誌

「霜降りひらたけ」はただのヒラタケではない?

2023.06.02
「霜降りひらたけ」はただのヒラタケではない?

こんにちは。きのこの新品種開発一筋17年目、ホクト㈱開発研究課の石川です。

みなさんは、「霜降りひらたけ」をご存じでしょうか。2012年11月に販売を開始し、現在は長野・新潟・福岡の3拠点で生産しております。発売から11年目となるこのタイミングで、改めて「霜降りひらたけ」について紹介させていただきたいと思います。

いきなりですが、「霜降りひらたけ」の種名は何だと思いますか?

エリンギ や ブナシメジはきのこの種名がそのまま商品名になっていますよね。なので、「霜降りひらたけ」の種名も「当然、ヒラタケでしょ?」とお思いになるかもしれません。それは間違いではありません。確かに「霜降りひらたけ」はヒラタケの仲間です。しかし、ただのヒラタケではありません。

「霜降りひらたけ」は、エリンギ と ヒラタケとを独自の特許技術(WO2014020653)で交配したホクトオリジナルの“Newヒラタケ”と言えます。

実は、エリンギ と ヒラタケとは遠い遠い親戚にあたります。エリンギは地中海沿岸のきのこであり、日本には生息しておりません。一方、ヒラタケは世界中に広く分布しており、ホクトの本社からもよく見える「飯綱山」にも見られるきのこです。

研究日誌001

見た目も生態も異なるこの2種は親戚関係が遠過ぎるため、交配できません。なので、本来はエリンギとヒラタケ両方の特徴を持つような品種を開発することはできませんでした。
しかし、ホクトの技術によりそれを可能にしたことで「霜降りひらたけ」が生まれました。遺伝子組み換えなどの特別な方法ではありません。エリンギとヒラタケとの間を取り持つことのできるキューピッド的なきのこがあることを発見し、利用したことが決め手でした。

ちなみに過去の研究から、そのきのこはキューピッドになれないことが常識だと思われていました。そのような中で、この発見に至れたのは「色々やってみればいいじゃん」と遊び心を許してくれた上司や仲間の研究員達のおかげです。

研究日誌002

さて、「霜降りひらたけ」の美味しさの秘密は、ヒラタケに由来する「ほどよいうまみ」とエリンギに由来する「歯切れの良さ」だと思います。ヒラタケはうまみのある美味しいきのこです。しかし、品種間で差はありますが、人によっては「えぐい」と感じるほど「うまみが強すぎること」とクチャクチャとした「歯切れの悪さ」が課題だと感じていました。

これらの課題を改善するため、開発の過程では理想とする「ほどよいうまみ」と「歯切れの良さ」にこだわり、そのような特徴を併せ持つような交配・選抜を繰り返しました。選抜の過程では、研究員全員で数えきれない「えぐみ」・「クチャクチャ感」と戦い、最終的に「これだ」と思えるきのこに辿り着くことができました。

そして、「霜降りひらたけ」の見た目の特徴として挙げられるのが、肉厚で独特の霜降り模様のある傘だと思います。一般的なヒラタケは、傘が薄いので流通過程で割れやすいことが課題でした。傘の損傷が酷ければ見た目が悪い上に、品質劣化もしやすくなります。このような理由から、お客様に良い状態で手に取ってもらいたいと考え、肉厚な傘にこだわって開発しました。

研究日誌003

最後に、「霜降りひらたけ」の商品名にもなっている独特の霜降り模様についてです。この特徴もこだわり抜いた選抜の結果です、と言いたいところですが、これは全くの偶然です。

新品種開発の仕事は、戦略的な交配と選抜を繰り返すことで、理想とする特徴を併せ持つような品種を作ることです。しかし、戦略通りに得られる特徴だけでなく、霜降り模様のように思いがけない特徴が合わさった時に、新しいものが生まれるのかもしれません。また、「色々やってみればいいじゃん」の精神を忘れずに、これからも研究員一丸となって美味しいきのこをお届けします。

研究日誌004

ちなみに、結局「霜降りひらたけ」の正式な種名は何なのか・・・今のところ、決まっておりません。いつか、Pleurotus ostreatus var. hokto (ヒラタケの仲間の”ホクト”というきのこ)という学名をつけることが密かな夢です。

ホクト㈱ 開発研究課 石川真梨子

≪参考文献≫
・ヒラタケ属の新規菌株の育種,日本きのこ学会誌,24, 7-15 (2016)

きのこらぼに無料会員登録をしていただき、ログインした状態で記事をご覧いただくとポイントがもらえます。
貯まったポイントは、プレゼント応募にご利用いただけます。