コロナ禍はもう終わり？マスクを外す今こそきのこ！ ～きのこで免疫細胞をトレーニング～

こんにちは。ホクト㈱開発研究課の森です。マスク着用などコロナ感染に対する制限が少なくなってきました。しかし、「コロナ禍が終わった」と手放しで喜べない状況だと感じています。制限が減って、今まで以上にご心配されている方もいるのではないでしょうか。

そんな今こそ、睡眠や食生活を見直し、免疫機能を整えることが大切だと思います。

今回はきのこに含まれるβ-グルカンが免疫細胞をトレーニングして、感染症に対してより強い身体にしてくれるかもしれない、という話題です。
(※ここでは菌類でよく見られるβ-1,3-1,6-グルカンをβ-グルカンと記載します。)

β-グルカンはきのこに含まれる食物センイの一種ですが、他の食物センイには見られない“免疫機能を向上させる効果”を持っています。そこに深く関わるのが、“Trained Immunity＝自然免疫記憶”というメカニズムです。英語を直訳すると“トレーニングされた免疫”ですね。今回の重要キーワードです。

免疫細胞は、病原体に特徴的な成分を感知するセンサー（パターン認識受容体）を持っています。ウィルス遺伝子用のセンサー、細菌成分用センサーなど、多くの種類があります。この一つにβ-グルカンセンサー（デクチン-1）があります。つまりβ-グルカンは、免疫細胞に病原体侵入の可能性を知らせるという特徴を持っています。これは植物由来の食物センイにはない特徴です。きのこが属する菌類には感染症の原因となるものもいるため、免疫細胞は菌類特有のβ-グルカンのセンサーを持っていると考えられます。

センサーに反応があると免疫細胞は戦闘準備態勢になり、仲間の免疫細胞たちと協力して病原体と戦います。反応した物質がきのこのβ-グルカンだった場合は、免疫細胞たちは戦闘準備をしたものの戦いにはならず一安心です。「良かった～、夕食に食べたきのこだったよ。」って感じです。しかし完全に安心しきって休息に戻る訳ではないところが、免疫細胞たちの偉いところです。

β-グルカンにより一度戦闘準備をした免疫細胞は、次の病原体の侵入に備えてしばらくスタンバイ状態を維持し続けることが分かっています。これが“Trained Immunity＝自然免疫記憶”です。この状態になった免疫細胞は、通常より素早く強力に病原体に応戦できるようになります。

免疫の記憶というと、獲得免疫記憶が有名です。例えば、ワクチン摂取後に特定の病原体に対する抗体が素早く作られるようになる機能です。

自然免疫記憶は、特定の病原体専用の強力な武器ではありませんが、様々な病原体に対応する免疫機能を増強する特徴があります。菌類のβ-グルカンによって自然免疫記憶が起こった場合でも、寄生虫、細菌、ウィルスなど菌類以外の病原体に対する免疫機能が強化されると言われています。

イギリスで50～70歳の高齢者を対象に行われた臨床研究では、β-グルカンを摂取したグループは風邪やインフルエンザになる回数が減り、免疫細胞が出す免疫活性化成分（IFN-γ）の量が増えていたそうです。

つまり、β-グルカンを含むきのこを食べることで、コロナや風邪などの感染症にかかりにくくなるよう、免疫機能をトレーニングできるということですね。

さらに前回3/13日の記事でご紹介したように、きのこの食物センイは腸内環境の改善によってIgA抗体を増やすという、自然免疫記憶とは別の免疫機能向上効果もあります。

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きのこの食物センイ自体は腸の免疫細胞までしか届きませんが、腸の免疫細胞を活性化することにより、全身の免疫機能が向上すると考えられています。コロナ禍の規制がなくなりつつある今、健康を維持しながら行動の自由を広げるために、きのこによる免疫細胞のトレーニングが役立つかも知れません。

ホクト(株)　開発研究課　森　光一郎（薬学博士）

≪参考文献≫
・Fuller R. et al., Yeast-derived β-1,3/1,6 glucan, upper respiratory tract infection and innate immunity in older adults. Nutrition, 2017, 39-40, 30-35.
・Martinez P.M. et al., Dectin-1 Signaling Update: New Perspectives for Trained Immunity. Front Immunol, 2022, 13, 812148.
・Netea M.G. et al., Defining trained immunity and its role in health and disease. Nat Rev Imunol, 2020, 20, 375-388.
・Tone K. et al., C-type lectin receptors of the Dectin-1 cluster: Physiological roles and involvement in disease. Eur J Immunol,2019, 49, 2127-2133.