研究員の研究日誌

エルゴチオネイン~遅れてやってきた抗酸化物質の大型新人~

2021.04.01
エルゴチオネイン~遅れてやってきた抗酸化物質の大型新人~

はじめまして。研究員の研究日誌をご覧いただき、ありがとうございます。私はホクト開発研究課 薬学博士の森です。これから、日々の研究業務で発見したことや考えたことを、このコーナーで紹介させてもらう予定です。できるだけ研究者っぽく、論文などを引用して、科学的根拠に基づいて書きたいと思いますが、私の思いや解釈もたくさん書いてしまうと思います。

研究報告でも論文でもない、研究員の日誌ということをご理解の上、温かい目で見てもらえると嬉しいです。でも、もし間違ったことを書いていたら、やさしく教えてください。キノコの最新研究や、ホクトの研究員が考えていることを、読者の皆様に楽しんでもらえるようにお伝えしたいと思っています。

さて、記念すべき第一回なので、とにかく私が今一番熱く語りたい、エルゴチオネインについて書いてみます。エルゴチオネインは、健康維持のためにとても重要な働きをしているにも関わらず、機能の解明が遅れてきたため、今はまだ認知度が低い成分です。

でも私は知っているのです。今朝も「エルゴチオネインを食べなきゃ。」と思い、朝食にヒラタケと小松菜と卵の炒め物を食べてきました。お昼のお弁当にも入っていました。ずるい、自分だけ健康に長生きしようだなんて・・・。せめてきのこらぼ読者の皆様に知ってもらわなければ、私は良心の呵責に苛まれ続けてしまいます。

霜降りひらたけイメージ写真

エルゴチオネインの作用をネット検索すると、優れた抗酸化力があり、アンチエイジング、美容、認知機能維持、生活習慣病の予防などに効果がある、なんて事が紹介されています。でも、そもそも「抗酸化力」という言葉自体、結構難しくて理解しにくいですよね。今回は抗酸化力について、分かりやすく掘り下げてみたいと思います。

私たちが生きるのに欠かせない酸素。金属が酸素と結びついて錆びてしまうことからも分かるように、酸素は他の物質と強く反応し、変性させてしまう性質を持っています。大気中の酸素原子のほとんどは、比較的安定性が高く反応しにくい酸素分子(O2)の状態で存在しています。特に問題なのは、体の中で一部の酸素が、非常に反応しやすい形態に変化してしまうことです。この反応性が高い酸素には幾つか種類があり、ひっくるめて活性酸素と呼ばれています。活性酸素は体内の様々な物質と反応して変性させ、その機能を奪ってしまうため、生活習慣病や認知症、癌などの病気や老化の原因になります。

しかし生物は、危険な酸素を体に取り込み、酸素呼吸によって大きなエネルギーを生み出せるように進化してきました。それを可能にしたのは、体内で発生した活性酸素を消去して無毒化する力であり、それこそが「抗酸化力」です。私たちは抗酸化力を持つ物質「抗酸化物質」を自らの体内で作ったり、食べ物から摂取したりすることで体内の抗酸化力を保ち、活性酸素の毒性を打ち消しながら生きています。体の中で作っている抗酸化物質には、スーパーオキサイドディスムターゼ、カタラーゼといった酵素やグルタチオンという成分があります。また食品から摂取しているものには、ビタミンC、ビタミンE、カロテノイド類、ポリフェノール類などが知られています。

そして今世紀になって、人類の健康を支える抗酸化物質の大型新人(でも発見されたのは100年以上前なので高齢)として新たに注目されているのが、エルゴチオネインです。エルゴチオネインって、実はビタミンC並みに重要な成分じゃない??と研究者たちがやっと気付いたのです。長寿ビタミンと呼んでも良いんじゃないか?という論文も出てきています。

グラフ

最後に、エルゴチオネインを摂取する方法です。ずばり、キノコ、特にヒラタケがおすすめです。エルゴチオネインは動物や植物は自分で作ることができず、一部の菌類と細菌だけが作れる成分です。食品の中でエルゴチオネインを最も多く含むのはキノコ類だと言われています。そして私たちの分析結果では、一般的な生鮮食品売り場にあるキノコの中では、特にヒラタケに多く入っていることが分かりました。
なぜエルゴチオネインが長寿ビタミンとまで言われるようになったのかについては、また今度書いてみたいと思います。

ホクト株式会社 開発研究課 森 光一郎(薬学博士)

参考文献

  1. BD Paul et al., The unusual amino acid L-ergothioneine is a physiologic Cytoprotectant, Cell Death and Differentiation (2010), 17(3), 1134-1140, 2010
  2. Bruce N. Ames et al., Prolonging healthy aging: Longevity vitamins and proteins, PNAS (2018), 115(43), 10836-10844.
  3. Barry Halliwell et al., Ergothioneine – a diet-derived antioxidant with therapeutic potential, FEBS Lettes (2018), 592, 3357-3366.
  4. 谷口直之監修, 病態解明に迫る活性酸素シグナルと酸化ストレス, 羊土社

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