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12月の特集テーマ
お酒の文化、新しい魅力。

感謝の気持ちに育まれた、日本の酒文化

2017.12.01

今年もあと一ヶ月。お正月をはじめとした祝いの席や祭事には、必ずといっていいほど、日本酒が登場します。かつて簡単に手に入るものでなかったお酒は「特別なもの」として日本文化に定着し、時代に合わせて変化をとげていきました。今週の「きのこで菌活。」コラムでは、年末年始に向けて実践したい食べても太らない習慣づくりをご紹介していますが、今週の「トレンドコラム」では、新年にかけて楽しむ機会の増えるお酒の歴史と文化、そしてその魅力を食文化研究家の手島麻記子さんにお伺いしました。 写真:千駄ヶ谷 鳩森八幡神社にて

今年もあと一ヶ月。お正月をはじめとした祝いの席や祭事には、必ずといっていいほど、日本酒が登場します。かつて簡単に手に入るものでなかったお酒は「特別なもの」として日本文化に定着し、時代に合わせて変化をとげていきました。今週の「きのこで菌活。」コラムでは、年末年始に向けて実践したい食べても太らない習慣づくりをご紹介していますが、今週の「トレンドコラム」では、新年にかけて楽しむ機会の増えるお酒の歴史と文化、そしてその魅力を食文化研究家の手島麻記子さんにお伺いしました。 写真:千駄ヶ谷 鳩森八幡神社にて

てじままきこ
教えてくれたひと
手島麻記子(Tejima Makiko)食文化研究家 / テーブルコーディネーター
「日本酒のある豊かな暮らし」をテーマに、全国各地の日本酒とイタリアンをはじめとした西欧料理との食べ合わせや「ライフスタイルとしての日本酒」の新しい楽しみ方を。国内外で広く発信している。
(株)彩食絢美 代表取締役社長、日本酒造組合中央会認定 日本酒スタイリスト、酒造之太祖久斯之神任命 名誉利酒師酒匠、日本ソムリエ協会認定 ワインアドバイザー
【彩食絢美HP】http://www.saishokukenbi.com/

日本文化としての「酒」、世界の“SAKE”

国産ワインや地ビール、ウイスキーなど、日本酒に限らずさまざまな国産のおいしいお酒が楽しめる現代の日本。その歴史はどのくらい古くから続くものなのでしょうか。

「日本における日本酒の起源は、正確にはわかっていませんが、米麹を用いた酒づくりについて書かれた最初の文献は、奈良時代初期の『播磨国風土記』で、『神にささげていた米が水に濡れ、そこにカビが生えてきたので、お酒を作って神様に献上して酒宴を行なった』いうことが書かれています。もうひとつ、米を噛んでつくる酒の文献上の記録としては、同じ時代の『大隅国風土記』に、映画『君の名は』の作中にも登場した『口噛み酒(くちかみしゅ)』の記載があります。これは口の中でご飯を噛み、壺などに吐き溜めておいたものに、空気中の野生酵母が落ちてきて、アルコール発酵をし、酒ができたというものです」

稲作文化の発展とともにさまざまな神事が行われるようになると、初穂で醸した酒を神に捧げるようになります。

日本人の主食である大切な米で醸した酒は、収穫に感謝し、翌年の豊作を祈って神に捧げる特別な物でした。そして、一度神に捧げた御神酒(おみき)は、祭りの後に神様からの“おさがり”として、感謝の気持ちと共に、参加者皆でいただく風習がありました。この風習は日本の文化として、現代でも「直会」(なおらい)として受け継がれています」

この感謝の気持ちを表する行為が「押し頂く」という作法です。日本酒をいただく際に、盃を顔の前で上にかかげ、頭を下げるという所作をご覧になったことはありませんか。これは日本人が持つ独特の文化の一つ。

「押し頂くという作法は、酒を注いでくれた人に感謝、酒を醸した蔵人に感謝、米を作った農家の人に感謝、自然に、神様に、感謝。こうした、さまざまなことへの感謝の気持ちの表現としての日本人の所作は、海外の人にとっては、とても神秘的にうつり、そこに込められている意味を伝えると、とても感動されます」

また「酒を酌み交わす」という風習も、日本の文化を特長的に表しているものの一つなのだとか。

「ヨーロッパでは、ワインを注ぐのは、基本的には男性の役目。日本には、性別や年齢、上下関係などを越えて、“差しつ差されつ(※)”飲む、という独特の日本酒文化があります。相手を思いやりながら、分け隔てなく、皆でお酒を楽しむという素晴らしい文化です」

※ 酒杯を相手にさしたり、相手からさされたりして酒を飲むさま。 盛んに杯をくみかわすさま。

また、一方で洋酒と言われるジンやウイスキーが日本に入ってきたのは江戸時代のこと。明治時代には一般の方への販売も開始されましたが、非常に高価であったため一般的になったのは、第二次大戦後だったといいます。そして、さまざまな種類のある焼酎は江戸の文化にそって発展したお酒の一つでした。

「江戸時代には、日本酒や焼酎の原材料となる米が年貢の対象となり、とても貴重なものとして扱われたため、米以外の芋や麦などを原料とした焼酎づくりが広く一般に広がるきっかけになったのでしょう」

なるほど、現在の焼酎の多様性はこんな事情から来ているんですね。
神事に始まる日本のお酒文化は、平安時代には貴族が桜の散る中で唄を読みながら楽しみ、江戸時代には、さまざまな焼酎を作り出し、そしてどの時代においてもコミュニケーションのツールとして使われる、生活の中で欠かせないものだったのですね。

世界から注目される日本の酒とうまみ

世界に目を向けてみると、日本酒がヨーロッパをはじめとした、グルメ文化の発展している国々から注目されるようになったのは1980年代のこと。スペインの三ツ星レストランのシェフが、ワインとの食べ合わせが難しい酸味の強いものや苦いものにも合わせることのできる、日本酒の味わいを評価し始めたのです。

「ワインやビールは、濃厚なソースや脂分の多い料理とあわせると、口のなかの料理の味わいをスッキリとさせ、また次の一口に進んでいけるような楽しみ方があり、日本酒は、その旨味成分によって、口の中で日本酒がソースの役割となって、料理の味わいを、より引き出していくような楽しみ方ができます。これは、ワイン、ビール、日本酒、それぞれを構成する味わい成分の中心が違うことによります。ですので、お酒によってペアリング(料理との食べ合せ)の仕方も変わってきます」

ワインの味わいの中心は、酸味や渋味。ビールは苦味。一方で日本酒の味わいは、旨味を中心とした甘みや酸味。旨味を構成するアミノ酸は複数種類が合わさることで、味わいの相乗効果が生まれることが知られています。

「旨味を大切に考える日本料理は、昆布とカツオなどからとる合わせ出汁の文化。日本酒のもつ旨味成分(アミノ酸)はそこにさらなる味わいの相乗効果をもたらします。だから、出汁で煮込むおでんと日本酒の組合せは、永遠のグッドペアリングですね。このことは、チーズと日本酒を食べ合せた場合にも明らかになっていて、チーズの複雑な旨味成分を日本酒が上手に引き立ててくれることを、ヨーロッパの有名シェフやトップソムリエたちも認めています。また、日本国内の研究でも、食べ合せたときに、ワインより日本酒のほうが、チーズの旨味成分を口の中に残しやすいことが、科学的に証明されはじめています。旨味が豊富なきのこも日本酒にピッタリ。酒の肴に欠かせない食材のひとつですよね」

冒頭にもお話した日本の酒を楽しむ精神と共に、日本酒は世界で注目されるようになり、世界で日本酒ムーブメントが起こる程になりました。

「今の日本では、世界のお酒が食卓で気軽に楽しめるようになり、ウィスキーやワイン、ビールに代表されるように、日本産の外来酒が、国内外で高く評価されるようになりました。一方で、まだほんのわずかな輸出量である日本酒が、世界で注目され、各国でローカライズされた和食や現地の料理と共に楽しまれています。世界各国の酒文化が、これほどダイナミックに交流をして、広く楽しめる今は、とても豊かな時代ですね」

 

【12/11更新の次回は、多様化する日本のお酒の魅力と年始に楽しみたい食べ合わせの魅力をお届けします】

【今週更新!きのこで菌活。】

お酒を飲む機会の多い12月は、食べ過ぎ・飲みすぎからの体重の増加に気をつけたいですね。ちょっとした一工夫でおいしく食べても太らない身体が叶うきのこで菌活のお話です。

今週の「きのこで菌活。」を読む ▶︎

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