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【きのこ面白情報】グラフィック・アーティスト 鈴木安一郎
キノコのベストシーズンをむかえて、かなり気持ちが高ぶっています。
僕のキノコ探索のフィールドは富士山麓なのですが、8月からは、週2、3回のペースで森に出かけています。
キノコにのめり込んだのは10年程前。まず、菌類の種の多さと多様性にビックリさせられました。推定で150万種とも言われる数に圧倒され、欲張らずに、まずは地元の富士山でしっかりキノコを覚えようと思いました。ですから、富士山以外の山や森は詳しくありません。
富士山の原生林が好きです。
人間の手の入っていない森などないと言われますが、好きな森は、普段の生活とは違う空気に満ちて、時間の感覚も違い、森全体に良い気が流れています。
僕にとってのパワースポットと言えます。
その原生林のなかに、ひょっこり顔を出すキノコたちに惹かれています。
森の中で菌糸をはり巡らし成長するキノコは、やがて菌糸の集合体である子実体(いわゆるキノコ)として地上に現れ、胞子を飛ばします。きっと富士山の原生林には何百年も生きている菌糸たちがいて、昔から脈々とこの営みを繰り返してきたのだと思います。
このキノコたちは、僕が見ていなくても、ある時季がくると森にこっそり姿を現します。そして、役目を終えると大きな森の中で静かに朽ちていきます。この健気さがとても好きです。
僕が森で出会えるキノコたちは、その中のほんの一部、本当に貴重な巡り合いだと思っています。そして、この富士山やキノコに対する思いは、山や森そして木などを大切に拝む、自然信仰に近いのかもしれません。
キノコの写真を撮っていますが、写真家ではありません。
本業はグラフィックデザイナー、そして平面作品を制作するアーティストです。
学生時代に観察と表現という基本を学びました。対象となるものをよく見て理解を高め、独自性のある作品作りを目指すという考え方であり姿勢です。
自然が作り出す造形には到底かなわないのですが、それ故に、自然科学に対する興味も深まりました。ユーモラスなフォルムと鮮やかな色彩のキノコもその対象の一つと言えます。
最近興味を持っているものに、手描きの図鑑があります。いわゆる図譜と言われるもので、多くは標本画をまとめたものです。
最近の図鑑は、ほとんど写真が使用されていますが、写真はモチーフ(被写体)となる個体をリアルに表現はするものの、その個体の特徴が前に出すぎてしまい、種の説明が不十分ということがあります。その点、優れた図譜の標本画は、種の特徴を適切にとらえ、デフォルメや省略によってバランスよく表現されています。これは研究者や絵描きの観察の深さによるもので、写真以上に種をイメージしやすく、同定にも役立ちます。
いろいろな進んだ機材や技術がある中で、人間の手仕事が再評価されるのはアートに関わるものとしても嬉しいことです。
鈴木さん、あなたにとってのきのことは?
健気な森の住人
ユーモアに満ちたフォルムと色彩のバリエーションには脱帽です
鈴木安一郎 Yasuichiro Suzuki
1963年静岡県生まれ。1989年東京芸術大学美術学部デザイン科卒業。グラフィック・アーティストとして活動。富士山の麓、御殿場での暮らしを続けながら、キノコ観察に富士山通いを続けている。採取したキノコを撮影した〈of virgin forest〉のシリーズは、森で採ったキノコそのものの生々しい魅力にあふれ、きのこ採りの喜びがよみがえってくる作品。
作品集『きのこのほん』(ピエブックス、2010)
フリーペーパー「きのこの友」編集長 静岡新聞科学欄に「フジヤマキノコ」連載中(毎週月曜日)
鈴木 安一郎 -YASUICHIRO SUZUKI- http://www010.upp.so-net.ne.jp/yasuichiro/
きのこの友ホームページ http://kinokonotomo.com
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