vol.07 包丁
風光明媚な四季が織りなす情景、おもてなし文化に根ざした情緒。
美しさに彩られた国、日本。
日本には、笑顔あふれる暮らしを営むための、美しく、素晴らしい「技」と「心」が受け継がれています。
幸せな日々の暮らしに欠かせないのは、家族の「健康」。
その健康を支えるのもまた「暮らし」です。
豊かな毎日の暮らしを支える、日本の技にスポットをあてた、
感動の「美」ストーリーをお届けします。
いつまでも、ずっと。
[藤原照康刃物工芸(東京都目黒区)]包丁
Craftsman Story
創業は明治6年。
刃先に日本刀独特の波紋をもつ包丁をつくる、藤原照康刃物工芸。
「長年培われてきた刀工の技を現代の包丁づくりへ生かしたい」
その思いから、実用的な道具である「包丁」に、伝統の刀剣造りの技法を生かし、商いとしてきた。
藤原照康刃物工芸の包丁づくりは、一挺一挺、職人の手で仕上げられる。
代々、親方に受け継がれるその技の真髄は、
ひとの心を揺さぶるような、魂のこもった逸品をつくるということ。
鉄の塊を長年の経験と技で「打つ」こと、「研ぐ」ことで、
他のどこにもない切れ味の鋭い包丁を目指している。
Product Story
「これ、持っていきなさい」
高くなった空を、赤とんぼがゆるやかにとぶ、秋の日。
僕は、キミの元へ贈られた。
キミは、少し怪訝な表情で、僕の入った包をひらく。
「いつも使ってる・・・包丁?」
「そう、包丁。」と答えたのは、お母さん。
いままで二人で立っていたキッチンから、もうすぐキミはいなくなる。
そう、新しい家に嫁ぐんだ。
「買ったお店でね、研ぎ直してもらったから、すごくよく切れるよ。」
「うん。」
「包丁って、とても縁起の良いものなんだって。『災難を立ち切り、幸運を切り拓く』。この先、ツラいこともあるかもしれないけれど。幸せになりなさい。」
笑顔のキミは、瞳に涙をためて、一言「ありがとう。」と言ったんだ。
そして、長い年月が経った今日。
僕は三代目の持ち主の元へ旅立つ。
あの日と、よく似た、空の高いよく晴れた日。
涼しくなった風が、真っ白なドレスのレースを揺らす。
「幸せになってね」その言葉とともに、
キミは、娘を送り出した。
Endless Story
赤々とした鉄の塊は、1000℃にもなるのだと言う。
赤く、熱い、鉄の塊を、何度も何度も打ち、形をつくる。
包丁の形になってからもなお、火を入れて、打ち、
鍛冶工の技で、鋼に粘りを出す。
強く仕上がる、総手作りの包丁は、使っているうちに刃が欠けず、
親子二代・三代にわたって使うことのできる包丁となる。
そして、刃を研ぎ出し、一挺の包丁となって、ご家庭へ。
一挺一挺大切に作られた包丁は、
研ぎ直すことで、本来の切れ味を取り戻し、長く使うことができる。
丁寧に仕上げられた逸品は、人の心を動かし、
長く長く、使うことで、手に馴染み、他には変えがたい価値が生まれる。
そして、長きにわたって毎日の暮らしに溶け込む名品は、
私たちの暮らしを美しく、豊かにし「健康」にする。
取材協力:藤原照康刃物工芸 https://www.teruyasu.jp/