プロアスリートを支える食事に迫る。第69回体操/トランポリン・森 ひかる選手インタビュー
2026.08.12
明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今月は、2021年夏の東京五輪、2024年のパリ五輪に連続出場し、後者では個人6位入賞を果たしたトランポリン日本人第一人者の森ひかる選手が登場。トランポリンを始めたきっかけや2度の五輪までの道のり、今後の目標、そしてアスリートの食生活まで幅広くお話しいただきました。
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初めに森選手の幼少期について教えてください。森選手がトランポリンと出会ったのは4歳の時だったそうですね。
はい。近くのスーパーの屋上にトランポリンがあって、お母さんの買い物について行くとトランポリンを飛ばせてもらえました。それが最初ですね。
競技として始めてからは、どんどんと上達していったのでしょうか?
技の習得は割と早かったと思いますが、私は結構、完璧主義なんです。大人の選手になると10本の連続技を20~30秒かけてやるというルールになりますが、子どもの選手だと5本。その5本連続がなかなかキレイにできなくて、自分なりに完成形を目指していた記憶があります。それもあってか4歳か5歳のときに初めて出場した足立区の大会で優勝しました。
そんなに小さい頃から大会に出場していたのですね。
はい。でも、当時はそこまでの向上心を持ってやっていたわけではなかったと思います。真剣に上を目指し始めるようになったのは小学校の頃です。全日本ジュニア選手権だと同じカテゴリーに300人くらい参加していましたし、ライバル的な子もいましたから、自分なりに頑張っていました。
2008年の全日本ジュニア選手権で優勝し、中学生になってからは2013年の全日本選手権を史上最年少で優勝。当時を振り返っていかがでしょうか。
練習はもちろんですが、その練習に通うための自転車が良いトレーニングになっていたかもしれないですね。学校が終わったら自転車で急いで練習場に移動、トランポリンの練習をして、21時半~22時に帰ってくるという生活でした。練習場に行く時は全力で自転車を漕いでいたので瞬発力アップや基礎体力向上につながっていたと思いますし、帰りはいいクールダウンの時間になっていたのかなと思っています。
高校は地元の足立新田高校に入学後、強豪校である金沢学院高校に編入。金沢へ行ってからの生活はいかがでしたか?
学校も部活も途中からだったので、最初は心身ともにきつくて、トランポリンをやめて東京に帰りたいと何度も思いましたね…。でも、ありがたいことに金沢には母が一緒に来てくれていたので、生活の面倒も見てもらえましたし、競技に集中することができました。
高校時代は競技人生で一番練習した時期だと思います。朝、授業を受けてから学校を途中で抜けて練習、戻って午後にまた授業を受けて、夕方から部活動に参加するという生活でした。そこまで練習時間を取れたのは学校のサポートがあってこそですが、練習場を1日で2往復する日が週2~3回はありましたね。そういう日の練習時間は合計7時間。睡眠時間とほぼ一緒くらいでした。
物凄い練習量を乗り切れたのは、お母様の支えもあったからこそですね。練習はどのような内容だったのでしょうか。
ウォーミングアップ、フィジカルトレーニング、クールダウンも入れて、それだけの時間を消化していました。実を言うと、私は本当にトレーニングが好きではなくて、文句を言うことも多かったと思います。でも、そんな自分に向き合ってくれたのが、当時指導してくれたトレーナーの方でした。私が負けず嫌いな性格であることを考えてサポートをしてくれて、おかげで出された課題も自分なりに考えてやるようになりましたし、徐々に自分自身をコントロールできるようになっていきました。
そうしたなか、世間では東京五輪への関心度がアップし、トランポリン競技、その第一人者である森さんへの注目度も高まっていきました。
ものすごくプレッシャーを感じていましたね。それに気づいた時には東京五輪が終わっていました。決勝を外から見ている時に「ああ、もう飛ばなくていいんだ」と考えたときに、頭の先から足の下にかけてサーっと何かが降りていくのを感じました。あの感覚は忘れられないですね。そのときにすごい重圧を抱えていたことを自覚しました。
2019年の世界選手権で優勝してから取材が一気に増えて、テレビに出ると金メダルが期待されている選手として紹介され、「金メダルを取りますと言ってください」とお願いされることも続いて、そうしたプレッシャーが心の中に積み重なっていたと思います。
その中で競技と向き合うのは並大抵のことではないと想像できます。一方、トランポリンは30秒に10本の連続技を組み込む構成ですが、この内容を完璧にしていく過程も、想像を絶する世界ですね。
その過程が有意義なものだと心から感じられたのが、イギリスに来てからでした。イギリス人のコーチに「どうして国が違う私のコーチをしてくれるの?」と尋ねたところ、コーチが「僕とあなたが築いた友情関係は死ぬまで続いていくよね」と言ってくれて、その言葉で大切なのは競技の結果だけではないと強く思えました。
30秒に10本の技を組み込む作業に二人三脚で取り組み、細かい所作を徹底的に突き詰めていくのは本当にすごいこと。演技時間の30秒に表れないかもしれないけど、お互いが積み上げてきた時間が詰まっています。だからこそ、大会はゴールじゃなくてボーナスタイム。結果として金メダルが取れたら理想的ですけど、目に見えないものこそ大切だと今の自分は胸を張って言うことができます。
それを知ることができたのが、東京五輪後も競技を続けられた原動力ですね。
そうだと思います。私は本当に大切なことに気づけましたし、世界中の人たちとつながって、多くのことを学べている。あそこでやめなくて本当によかったと思いますし、起こる物事には全て意味があるとも感じましたね。
パリ五輪は前向きな気持ちで取り組めたのではないですか?
いえ、実はパリ五輪のときもすごく恐怖を感じていました。東京五輪のときは大会前に全然ジャンプを飛べなくなってしまって、パリでもまた失敗したらどうしようという気持ちが強くて、怖かった。でも、パリでは競技がすごく楽しかったんです。最後の最後に神様が味方してくれたのか、撮った写真を見たら笑顔の自分がいて、頑張ってよかったなと心から思えました。
結果としては6位入賞でしたが、周りの評価よりも、自分がどう思うかという部分がより大切だなと分かったのがパリ五輪でした。そこの部分はこれからも大切にしていきたいですね。
森選手は食生活に関してはどのような取り組みをされていますか?
日本にいた頃は母親が食事を作ってくれていたので、全面的に栄養管理を任せていたのですが、今は全て自分でやらないといけません。
自分もアスリートなので、栄養の勉強は多少なりともしていて、どういう栄養素を摂取しなければいけないかは理解していますが、海外では日本と売っているものも違いますし、最初はすごく難しかったですね。
どのような苦労がありましたか?
最初は食材を全て日本から持参して、お湯を入れたらできるようなレトルト中心で生活していたのですが、徐々に料理もできるようになりました。基本的にはスープとご飯、タンパク質と野菜という感じでバランスよく食事できるようには心がけて作っています。
ただ、練習を終えて帰ってから料理をするのは大変なので、肉や魚を焼いてソースをかけるだけとか、タコライスのようにご飯に載せるだけでおいしくて簡単に栄養が摂れるメニューが中心にはなりますね。
トランポリンは体が軽くないと飛べない競技だと思いますが、体重管理はいかがですか?
毎朝、同じ時間、同じタイミングに体重を測ることは大事にしています。それを続けたことで、少しの変化でもすぐに対応できるようになったと思います。トランポリン選手は体重が軽い方がいいと思われがちですが、跳躍力を引き出すための筋肉も必要ですし、人それぞれ適正体重がある。それを把握しておくこと。自分の場合はそこまで厳しい食事コントロールをしているわけではないです。カロリーを考えながら食事をしていますが、単に制限するだけではなく食べたいものを食べることはメンタル面でとても大事です。
例えば、「脂質を落とすために、鶏むね肉をメインに食べよう」と普段は考えていても、ある時は「もう疲れたから、鶏もも肉にしよう」となることはあります。鶏むね肉で脂質をコントロールできているから、今日だけはケーキを食べても大丈夫かなどメリハリをつけながら行うことがメンタルの健康には重要だと思います。
カロリーを考えるうえで、ヘルシーな食材の代表として「きのこ」がありますが、きのこも料理によく使われますか?
はい。きのこ類を食べようと思ってスーパーへ行くときのこがないということがありましたね…。アジア食材のスーパーには置いてありますけど、値段も高いですし、そう簡単には手が出ません。近くのスーパーにしいたけが入った時はすごく嬉しかった記憶があります。
きのこは好きなので、現地のスーパーで買えるマッシュルームとかを入手して、焼くかスープに入れるかという形で食べることが多いです。焼く場合は普通にしょうゆやソースをかけるだけでおいしく食べられます。
日本で栄養指導を受けた時に「きのこは栄養があるのにカロリーが低いから積極的に摂取した方がいい」というアドバイスをいただいて、日頃から摂取量が少なくならないように意識しています。
きのこを使った料理で、日本に帰国したときに食べたくなるメニューはありますか?
きのこの肉巻きですね。子どもの頃から母が試合の日や運動会など、大事な日のお弁当に入れてくれていたのが思い出で、大好きな食べ物です。
腸内環境を改善する効果もあると言われていますが、森さんの場合は?
私は日頃から便秘で苦しむということがないので、はっきりとした効果は分かりませんが、きのこも含めて日々の食事のおかげで体調が良いのかもしれないですね。
では最後に、ご自身の経験を踏まえて、食生活の部分でジュニアアスリートへのアドバイスをお願いします。
食事を摂る際、汁物から食べて『胃のウォーミングアップ』をした方がいいということですね。例えば、すごく空腹の状態で冷たいものを一気に食べてしまうと胃によくない影響を及ぼします。なので、一度、温かい汁物を飲んで、胃の動きを活発化させて、そこから本格的な食事をした方が消化吸収もよくなります。大学生になった2018年のときにサポートしてくださっていた味の素さんの講義に参加し、その話を聞いて、すごくしっくりきました。
特に朝なんかはいきなり食事をするよりも、水を温めて飲んで、そこからゆっくり食べ始めると調子がいいですね。私と同じ取り組みが合うかどうか分かりませんけど、成長期の子どもたちやスポーツをやっている学生さんたちにも参考にしてもらえたら有難いかなと思います。
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食事の時はカロリーを考えつつも、制限しすぎず、メンタル面も考えながら食べたいものを食べるようにしています。きのこは低カロリーですが栄養素の豊富な食材。きのこやお肉、野菜がまとめてとれる”そうめん”なら夏でもサラッと食べられて、身体にも心にもとても魅力的だと思います。
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profile
(もり ひかる)
1999年7月7日生まれ、東京都足立区出身。
4歳のときに地元のデパート屋上にあったトランポリンと出会い、その楽しさに目覚めトランポリンを習い始め、2013年には14歳という史上最年少で全日本選手権初優勝を果たした。リオ五輪は年齢制限の為出場できなかったが、2017年には世界選手権初出場ながらも、日本女子初となるシンクロナイズドで銀メダルを獲得。2018年では同じく日本女子初のシンクロナイズド金メダルを獲得した。2019年世界選手権では個人で日本人選手初となる金メダル獲得。東京オリンピック 日本代表、パリオリンピックでは6位入賞を果たす。



