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【きのこ面白情報】菌類研究者 白水 貴

菌類研究者が考えた「普通のきのこ」と「立派なきのこ」

「普通のきのこと立派なきのこ、味がいいのはどっち?」
お茶の間を沸かせたCMのセリフが僕の心に響き、晩秋ということもあって無性にきのこが食べたくなりました。ところで、この“普通のきのこ”や“立派なきのこ”とは、いったいどのようなきのこなのでしょうか?今日は看過されていたこの問題についてまじめに考えてみたいと思います。

ここで言う“普通”を“日常出会う頻度”だと考えれば、普通のきのこはシイタケであると言っていいでしょう(図1)。いまでこそ当たり前に食卓に並ぶ“普通のきのこ”となったシイタケですが、栽培法が確立される前は決して普通ではありませんでした。栽培きのこの安定供給にはまだ至っていなかった昔、シイタケ栽培といえば山から切り出してきた原木にナタで切り目を入れて放置し、自然にシイタケが生えてくるのを待つ「ナタ目法」というバクチでした。その後、技術の改良・研さんが重ねられ、純粋培養した菌糸を原木に植えたり、おがくず培地を用いたりすることで、栽培きのこの安定供給が実現されました。こうして、シイタケは晴れて普通のきのことなったのです。

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原木の中で十分育った菌糸にきのこをつくらせるには、木槌でたたいたりして物理的な刺激を与えるとよいのだそうです。このほかに、きのこを出させるための刺激として面白いものに電気刺激があります。電気ショックによってきのこ増収を図る装置まで開発・販売されているのだから侮れません。きのこと電気刺激の関係については実は古くから知られており、古代ギリシアの人プルタルコスも「なぜトリュフは雷によってつくられるのか」と問うていますし、古代インドの聖典リグ・ヴェーダにも「きのこは落雷によってつくられる」と記されています。古来の観察が現代の“電撃きのこ発生装置”に結実していると考えると胸が熱くなりますね。

さて、次は“立派なきのこ”について考えてみましょう。何をもって“立派”とするかは人それぞれですが、僕はストレートにその大きさで判断したいと思います。いついかなる時も“大きなきのこ”は正義なのです。きのこに詳しい方ならば、芝生に突如発生し毎年世間を騒がせているオニフスベや、重さ30kgを超えるニオウシメジを思い浮かべるかもしれません。では、これらのきのこを立派なきのこと認定してよいでしょうか?いやいや、壮大な生物進化の歴史を紐解けば、現生のオニフスベやニオウシメジが尻をからげて逃げ出すような大物の登場を見ることになります。時は今からさかのぼること4億年前のデボン紀と呼ばれる時代、直径1メートル、高さ8メートルに達する円筒形の構造物が、まさに天を突かんと立ち上がっていました。まだ大型の樹木が進化していなかった陸上生態系にあって、やたらと目立つこの構造物こそプロトタキシーテス(Prototaxites)と呼ばれる菌類です(図2、3)。菌類がつくる、肉眼で見える大きさの構造物をきのこと呼ぶのであれば、プロトタキシーテスは空前絶後の巨大きのこであると断言してよいでしょう。

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さっきも言いましたが、あるものを立派と判断する基準は人それぞれです。大きさだけでなく、生態系での働きや造形の美しさにその価値を見出すこともできるでしょう。特に、後者の判断基準において一押ししたいきのこが先ほどから脳裏をかすめておりますが、ここで紹介するにはあまりにも神々しいので次の機会に譲ることとします。
そんなきのこにもっと魅了されてみたいと思った方に朗報です。今年のニコニコ学会βシンポジウムにて「菌(くさびら)放送局『きのこ会議』」という菌セッションを企画しております。当日会場に来られない方もニコニコ生放送にてお楽しみいただけますのでご安心を。舌以外で味わう濃密な菌の魅力をお茶の間にお届けしますので、ぜひご堪能ください。

白水さん、あなたにとってのきのことは?
肝心なところは見せない恋愛上手。

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白水 貴
菌類研究者/日本学術振興会特別研究員。1981年、和歌山県生まれ。2008年筑波大学大学院生命環境科学研究科博士課程修了。博士(理学)。長年日陰者扱いされてきた菌類を生物史の表舞台に立たせるべく日々研究。珍奇な菌類の日本一を決める「日本珍菌賞」主催。共著に『微生物の生態学』(共立出版)、『日本のきのこ』(山と渓谷社)など。生物多様性の宝庫といえる菌類の研究をして、自然の素晴らしさを世の中に発信していきたい。
Twitter https://twitter.com/Takashirouzu
Website https://sites.google.com/site/ornithomyces/
第5回ニコニコ学会βシンポジウム http://niconicogakkai.jp/nng5/

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