プロアスリートを支える食事に迫る。第52回 陸上競技・鈴木 健吾選手
2025.03.01
アスリートへのインタビューを通し、明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今回登場するのは男子マラソンの日本記録保持者である鈴木健吾選手です。
神奈川大学時代は箱根駅伝に4年連続で出場し、3年時には花の2区で区間賞。社会人では2021年のびわ湖毎日マラソンで2時間04分56秒の日本記録を打ち立てました。駅伝、マラソンと活躍してきた鈴木選手の、土台となる食への意識や今後の夢などをお聞きしました。
鈴木選手は小学6年生のときに陸上競技をはじめられたそうですが、きっかけを教えてください。
小学校の低学年からソフトボールをやっていましたが、引退したタイミングで父の勧めで地元のランニングクラブに入りました。長い距離を走るのが好きだったので、スムーズに続けられたのかなと思います。
お父様も全国高校駅伝に出場されたそうですが、一緒に練習をしたり、指導を受けたりすることはあったのでしょうか?
中学で陸上競技部に入って、少しずつ本格的に競技をやるようになりました。強豪校ではなかったので休みも多く、そのときは父に自転車やバイクで「行くぞ」と連れていかれましたね。
将来、陸上競技選手への道に進みたいと考えたのはいつ頃だったのでしょうか?
あまり先のことを考えていなかったんですけど、カテゴリーごとに全力でやっていたら、次の道が開けてきた感じです。高校でインターハイと全国高校駅伝に出場できて、神奈川大学から勧誘を受けました。大学で一生懸命やっていたら実業団で競技に集中できる環境ができました。
神奈川大学(以下、神奈川大)では4年連続で箱根駅伝に出場されました。3年時はチームの主将も務め、10000mでは当時の神奈川大記録(28分30秒16)を残して、箱根駅伝は花の2区で区間賞を獲得と好成績を残されましたが、なにか成長のきっかけがあったのでしょうか?
特別に何か変えたということはありません。自分のなかで環境にも慣れて、トレーニングもしっかりと積み上げることができたのが結果を残せた要因かなと思います。箱根駅伝の2区は、強い4年生もいましたし、チャレンジしようという気持ちでした。権太坂の上りでトップに立ちましたが、終盤はいつくるのかという怖さがありましたね。2区は神奈川大にとって地元なので応援が多く、気持ちよく走ることができました。
大学時代を経て、富士通に入社。2021年のニューイヤー駅伝は6区で区間賞を獲得して、富士通の12年ぶりの優勝に大きく貢献されました。さらにびわ湖毎日マラソンで2時間04分56秒の日本新記録で優勝。ゴール後にタイムを見たときはどのようなお気持ちでしたか?
びわ湖毎日マラソンは1年前にも出場しましたが、雨が降って、風も強くて、歯が立ちませんでした。ただ最後となったびわ湖毎日マラソンは気象条件が凄く良くて、それまでのトレーニングも良い状態でできていましたし、密かに優勝を狙っていたんです。例年の条件なら2時間7分台が出ればいい方かなと思っていたんですけど、後半になるにつれてカラダも動いてきたんです。終盤はペースが上がって、タイムも伸びたので自分でもビックリしました。
男子マラソンで日本記録を樹立されましたが、パリ五輪への出場は惜しくも叶いませんでした。東京五輪が終わってからパリ五輪までを振り返ってどのような時間だったでしょうか?
日本記録はまぐれじゃないか? と言われることもありましたし、自分でもそう感じる部分があったんです。だからこそ、翌年の東京マラソンを2時間05分28秒で走れたのは大きな意味があったと思います。4分台はまぐれではなく、自分の力がついてきていると実感できました。しかし、オレゴン世界選手権の直前に体調を崩して欠場してからは、自分が思っている以上に焦りがあって、長い間、引きずってしまったかなと思います。
ご自身でもビックリされたという日本記録。自分のタイムとして、身近なものになってきた感覚はあったのでしょうか?
そうですね。それ以上の記録を出せるような準備はしていますし、自分だけでなく、周りの選手も日本記録を更新してもおかしくありません。世界は2時間1分を切っているので、もっと上を目指していかないといけないなと感じています。

ここからは、鈴木選手の食事面についてお聞かせください。小学6年生から陸上競技を始められますが、ご実家ではどのような食生活だったでしょうか。
本格的に競技を始めて、母が栄養面の勉強をしてくれてバランスの良い食事を作ってくれました。そのおかげもあり、好き嫌いはありません。カラダが大きくないので、他の人より多くは食べられなかったかもしれないですけど、頑張って食べるようには心がけていましたね。母の手料理ではありませんが、うなぎは好きなので、よくリクエストしていました。
神奈川大時代は寮に入られていたそうですが、どのような食生活を送られたんですか?
平日の朝・夕は寮で食事を提供してもらっていました。平日の昼と土日は各自です。自分で作ることはなかったですけど、栄養バランスを考えて食べるように心がけていました。
食事や栄養学について学ぶ機会はこれまでにありましたか?
本も読みましたし、大学、実業団と進むなかで、栄養学の講習会も何度かあったので、ある程度の知識がついたかなと思います。
アスリートの身体づくりにも役立つ食材の一つ「きのこ」もよく食べられますか?
僕は好きです。鍋や味噌汁によく入れますね。実家でもよく出ていました。シンプルに焼いて醤油をかけて食べていた記憶があります。
きのこは低カロリーで栄養価の高い食材として注目されていますが、そういった栄養的な価値はご存じでしたか?
きのこにはビタミンDなどが含まれていて、カルシウムの吸収を促してくれることは知識としてあります。また、身体に必要なビタミンB群も豊富ですよね。
きのこには腸内環境を改善する働きも報告されています。腸の状態、腸活について意識したことはありますか?
腸内環境が悪いとパフォーマンスに影響するんです。特にマラソンを始めてからは食事と睡眠をより大切にしていますね。レース直前は当然ですが、日頃から食事の内容、タイミングには気をつけて、下痢など体調不良にならないように注意しています。

近年は趣味や健康のためにランニングを行う一般の方もたくさんいます。長く健康にランニングを楽しむために気をつけることがあれば教えてください。
走るきっかけがダイエットの人、マラソンで完走したい人など様々な方がいると思います。共通して言えるのは、脚が痛くなったりすると、走り続けるのは難しくなるので、無理をしないで少しずつという気持ちが大切かなと思います。
では、より高いレベルを目指して陸上競技に取り組んでいる方々に向けてアドバイスをお願いします。
近年、トレーニングはいろんな情報があふれているので、何が正解かわからないまま、練習をしている方は少なくないと思います。私たちも正解がわからないまま手探りでやっている部分もあるんですけど、まずは走ることを好きになってほしいですね。そして自分自身を信じて、自分のカラダに耳を傾けることが大切かなと思います。
最後に、スポーツを頑張っているジュニア世代に向けて、食事面でのアドバイスをお願いします。
ジュニア期に栄養をとることで、大学・社会人になったときに大きな差になると思うので、まずは食べることを大切にしてほしいです。競技面でストイックになることも必要かもしれませんが、本当に活躍したいときにボロボロになったのでは意味がありません。中高生はたくさん食べて、いっぱいカラダを動かすのが良いのかなと思います。
鈴木選手の今食べたい菌勝メシ
コメント
普段から栄養バランスを意識した食事を心がけており、腸内環境を整えることもとても大切だと感じています。パスタ料理が好きなのですが、ビタミンB群など栄養の豊富なきのこと、お肉、トマトが入ったパスタは必要な栄養素がバランスよく摂れるところが良いですね。

きのこと牛肉のスタミナトマトパスタ
きのこには、糖質を代謝して効率の良いエネルギー補給を助けるビタミンB1が豊富です。また、玉ねぎやにんにくに含まれる「アリシン」にはビタミンB1の働きを助ける効果があり、糖質源であるパスタと合わせることで、アスリートにぴったりな一品に仕上がります。
profile
(すずき けんご)
1995年6月11日生まれ、愛媛県宇和島市出身。
神奈川大学卒、富士通所属。
小学校6年生のときに父親の勧めで陸上競技を始める。神奈川大学時代は箱根駅伝に4年連続で出場して、3年時には花の2区で区間賞を獲得。4年時には全日本大学駅伝の最終8区で東海大を逆転して、20年ぶりの大学一に輝いた。社会人では故障に苦しむも、2021年のニューイヤー駅伝は6区で区間賞。12年ぶりの日本一に貢献した。同年3月のびわ湖毎日マラソンで日本記録となる2時間04分56秒で優勝。同年12月に女子マラソン東京五輪代表の一山麻緒さんと結婚したことを発表した。翌年の東京マラソンは日本歴代パフォーマンス2位(当時)の2時間05分28秒で日本人トップの4位。同年7月のオレゴン世界選手権代表に選出されるも、体調不良で欠場した。現在は再び、世界を目指して取り組んでいる。
協力:THE DIGEST
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