プロアスリートを支える食事に迫る。第72回ラグビー・岡部 崇人選手インタビュー
2026.11.01
明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。今回はジャパンラグビーリーグワン・横浜キヤノンイーグルスで活躍する岡部崇人さんが登場。ラグビーを始めたきっかけやこれまでのキャリアの転機、日本代表入り、今後の目標、そしてアスリートの食生活まで幅広くお話をお伺いしました。
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ラグビーを始めたのは上宮中学校からとのことですが、それまではどのようなスポーツに取り組んでいたのですか?
小学生の頃は2年生から6年生まで空手をやっていました。中学校には空手部がなくて、違うスポーツをやりたいと思っていましたが、野球やバスケットボールなどは経験者がほとんど。ラグビーなら中学からでも始められそうだなと思っていたとき、学校でやったスポーツテストの成績を見た担任の先生から「ラグビー部に入ってほしい」と言われました。先生がラグビー部の顧問だったこともあって、それがラグビーを始めるきっかけになりましたね。
実際に始めてからはどうでしたか?
ルールは難しかったですが、やることは極めてシンプルでボールを持って前に進むだけ。当時、それほど体は大きくありませんでしたが、ボールを持って走るのが楽しかった。そこに一番の魅力を感じました。
高校時代までは無名と言われていた岡部選手ですが、U-17近畿選抜に選出されましたね。当時を振り返っていかがでしょうか。
強豪校の有名選手と一緒にプレーできることになって、自分も結構、通用するんだとわかりましたし、その中で足りない部分がどこかも認識できた。そこは大きかったです。個の力を磨くことにフォーカスしていたからこそ、そういうチャンスも転がってきた。その経験や運、つながりもあって、関西学院大学のセレクションに参加することもできて、大学への道がつながったと思います。
関西は大学ラグビーもレベルが非常に高く、同志社や立命館、関西大学など伝統校も揃っていますね。
そうですね。自分も関西学院大学に入れて、レベルの高い仲間とラグビーをできることになりました。最初は高校時代から第一線でやってきた選手の中に混ざって練習することに不安もありましたけど、「今に見とけよ」という反骨心も芽生えた。ポジションもバックロー(8番)で勝負することになりました。
僕はボールを持って走るのが強みで、タックル含めてディフェンスも好きだった。課題だったのはパスやキャッチなどスキルの部分でした。そこを改善するために、自分のプレー動画を毎日見て練習を繰り返した。それは今でも続けているんですけど、自分の進むべき方向性が明確になったと思います。
2年の時には関西大学リーグでの優勝を経験され、最終学年の4年時はゲームキャプテンも務められた岡部選手。その後は2018年に横浜キヤノンイーグルスに入団されますが、その経緯を教えていただけますか?
当時の牟田至監督が「キヤノンの練習に行きたいやつおるか」と声をかけてくれて、真っ先に手を挙げました。そこで10メートルダッシュや持久走などいろいろな測定をされて、「2番のフロントロー(フッカー)としてならチームに迎えたい」と言っていただきました。僕としてはトップリーグでやれるなら何でも受け入れる覚悟でしたので、キヤノンでの挑戦を決意しました。
同じFWとはいえ、8番から2番にポジションを変えるのは容易なことではなかったと思います。さらに岡部選手は、3年目からは現在のプロップ(1番)に転向しました。当時の心境はどうでしたか?
当時のアリスター・クッツェー・ヘッドコーチから「プロップをやってみないか」と勧められました。試合に出られない状況のなかで何もしなかったら選手生命が終わってしまう、ならチャレンジしようと決断しました。
振り返ると、そこがラグビー人生最大の転機だったと思います。ボールを投げ入れることのプレッシャーから解放されたのはものすごく大きかった。それまではボールを投げることとスクラムの2つの課題に向き合わなければいけなかったのが、スクラムだけに集中できるようになったのも自分にはプラスでしたね。2番をやったことで1番の気持ちも分かりますし、やりやすさはありました。
ただ、それまで経験がないポジションなので、組み立ても技術も皆無に近かった。いろんな先輩を全体練習後に呼び止めて、遅くまで付き合っていただき、サポートしてもらいました。
当時の状況もあってコンバートをスムーズに受け入れられたんですね。
ラグビー選手として死ぬか、生きるかという状況でその選択しかなかった。ラグビーはまだ続けたかったですし、それをやるしかないというのが正直な気持ちでした。僕の場合、高校から名門校ではない環境でしたし、大学でも十分な結果を出せなかったこともあって、変なプライドもなかった。雑草魂が武器と言うのかな。背中を押してくれたヘッドコーチにも感謝を伝えたいですね。
そこから徐々に実績を積み重ね、2024年にはついに日本代表に初招集されます。デビュー戦は2024年7月のジョージア戦。ユアテックスタジアム仙台での試合でしたが、どんな気持ちで臨まれましたか?
代表戦だからということはなくて、キヤノンでの試合と同じように試合前の準備をしましたし、代表とか相手とかに関係なく集中して挑みました。だからか、あまり外の声も耳に入らなかった。それがむしろよかったのかもしれません。
その矢先の翌2025年に、ケガで半年近く戦線離脱することになりました。
グロインペイン(恥骨結合炎)で、長く実戦から離れることになりました。2024年から2025年にかけて代表の試合があり、リーグワンの試合も全部出場していたので、結果としてひどくなってしまいました。もちろんケガをしないに越したことはないですけど、アスリートにケガはつきもの。座右の銘でもある『1日1歩』という考え方がプラスに働いて、それほど悲観的にならずリハビリ期間を過ごせたのはよかったです。
あと、リハビリを進めていく中で、お尻周りの筋肉が使えていないことが分かった。太ももの筋肉だけで走っていたり、ひざの位置が悪いとか、弱いところだらけだと気づけたのが大きかったと思います。課題の強化にも取り組めたし、前向きな時間になりました。
実戦復帰し、日本代表出場数も2ケタを記録しています。イタリアやオールブラックス(ニュージーランド)やカナダとも対戦し、国際経験も積み重ねる中で感じていることはありますか?
準備の大切さを一番感じています。試合までの1週間の過ごし方や、チームでやろうとしていることをいかに遂行できるか、そして集中力を維持することが重要だと痛感しています。
僕自身も30代になり、より入念に準備をするために練習へ行く時間も早くなりましたし、股関節周りをほぐしたり、お尻の力の入れ方を確認したりというのを1時間前から始めて、いい状態で全体練習に入るようになりました。そこをしっかりやらないと、選手寿命も伸びないし、パフォーマンスも上がらない。今はいい状態が戻ってきていると実感します。
ここからは、食事についてお伺いします。岡部選手はアスリートとして食事への意識が高い印象がありますが、その意識はいつごろからお持ちなのでしょうか?
大きなきっかけがあったわけではないですが、大学生の頃、今の食習慣はよくないのではと急に思うようになって、大学の栄養士さんに相談するようになりました。自分でも動画などで知識を学び、徐々に改善していったのが最初です。それまでは全く何も考えずに好きなものを食べていました。お菓子はあまり好きではなかったので食べることは少なかったですが、バランスより量だけを意識していたので、かなり偏りがあったと思いますね。
ラグビー選手は体が資本。特に岡部さんのようなFWはフィジカル的に屈強ではないと務まりませんよね。
そうですね。大学生だと安くて量のある丼物とかを食べがちで、野菜不足になったりする。そういう現実を客観視して、変えていこうとしましたね。
キヤノンに入ってからは?
チームにも栄養士さんがいるので、アドバイスを受けながら実践し、合わないものは除いていく形で現在に至っています。一例を挙げると、ハードな練習で疲れて、その晩に立ちくらみが起きたことがあったんです。それを栄養士さんに伝えると、「鉄分が足りないんじゃないか」と言われ、レバーや納豆、小松菜などを摂取した方がいいと助言をいただき、いったん試してみました。その中から、自分に合う食材を選ぶようにしました。足りなければ市販の補助食品なども取り入れたりしています。
日々の食事は自分で作られているのでしょうか?
そうですね。ただ、料理というよりは、いわゆる”男飯”みたいなのが多いです。野菜炒めとか肉を焼くとか簡単なものばかりですけど、作っていますよ。日本代表合宿や海外遠征の時はコックさんが作ってくれたものをビュッフェスタイルで食べています。本当に有難いです。
1日の食事の中で「絶対にこれだけは外せない」というルーティンはありますか?
試合前はやはりエネルギーを使うので、パスタやご飯を多めに摂取するようにしています。それ以外は肉などがメイン。(栄養素で)足りない分はサプリメントで補いつつ、その分、炭水化物を取れるスペースを胃の中に空けているという感じです。
あとは、好き嫌いはないので、いろんなものをバランスよく多く食べることを意識しています。
岡部さんは唐揚げや天ぷらなど油ものも食べないとお聞きしましたが、どんな理由があるのでしょうか?
これも始めてから長いですね。ただ、一切口にしないというわけではなくて、チームメートや仲間と会食や飲み会があったりする時は食べています。そういう時に食べられるように、普段は我慢している感じですね。がちがちに制限するわけではなくて、羽目を外す時はあります。
そんな岡部選手ですが、腸内環境改善効果など様々な栄養効果のあるきのこについても食べられる機会は多いですか?
きのこは大好きなので、スーパーに行くとよくかごに入れます。しめじ、まいたけが多いかな。みそ汁によく入れますし、ハンバーグのソースに使うこともあります。以前から腸内環境には気を付けていて、プラスになると考えてきのこを積極的に食べています。
岡部さんは便を調べて、足りない栄養素を確認されたことがあるという話も伺いました。結果はどうだったのでしょうか?
3年前くらいの話ですが調べてみたことがあります。結果は『バランスのいい栄養素が摂れています』という分析結果だったので、普段の食事への取り組み方が良い評価をしてもらえたと前向きな確認ができてよかったです。自分の食生活を科学的に検証する機会はなかなかないので、こういうアプローチは非常に有益。自分自身もすごく安心しました。
それでは、それぞれに頑張っているジュニアアスリートにアドバイスをお願いします。
小中学生であれば、まず競技を楽しんでほしいです。その楽しむ中で競技に必要な思考力を養っていければ一番いいですね。遊びでやっている中でもそれはできますし、自分も中学生の頃はそうでした。世界のトップ選手のプレーを動画で見て、それを真似するだけで楽しかった。挑戦した結果のミスになってしまうのは全然いいと思いますし、そのミスから、考える力があれば苦手にしていた部分が成長するなかで得意な武器になる可能性もある。やっぱり考えることはすごく大事ですね。今は動画などプレーの参考になる情報も沢山ありますから、ぜひいろんなことに積極的にトライしてほしいと思います。
では最後に、ラグビーに取り組んでいるジュニアアスリートへの食事面でのアドバイスをお願いします。
子どもの頃は、そこまでポジションを固定しなくてもいいと思います。食事については、自分の骨格や身体的特徴も踏まえつつ、内容を決めていった方がいいと思います。自分と同じようなFWのポジションだったら、量を多く、バランスよく食べるのがベストですし、ウイング(11・14番)のような走るポジションの選手なら体重を軽くしなければいけない。リーグワンの選手でも「体重を減らせ」と言われている人は結構います。とにかく大きさを求められるわけではなく、ポジションに合った体づくり、そのための食生活が必要だと思います。ラグビーは15人それぞれに求められる役割が違うので、それぞれに適した食習慣が大事になりますね。
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食事では、好き嫌いがないこともあり、いろんなものをバランスよく多く食べることを意識しています。また、きのこは大好きでよく買っています。腸内環境を整える効果があるのも嬉しいですね。試合前や体重の維持には炭水化物がかなり大事だと感じているため、きのこや豚肉も一緒にとれるおにぎりは嬉しいメニューですね。
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profile
(おかべたかと)
1995年2月19日生まれ、奈良県出身。上宮高校―関西学院大学―横浜キヤノンイーグルス。
高校時代にU-17近畿選抜に選出され、2013年には関西大学ラグビーの強豪・関西学院大学に進学。2年時は関西大学リーグで優勝するなど実績を積み重ね、2018年にはキヤノン入りをつかみ取った。入団後はなかなか試合出場の機会に恵まれなかったが、プロップ(1番)への転向をきっかけに飛躍。2024年には同年発足したエディー・ジョーンズ監督体制の日本代表入りを果たし、存在感を増している。12月に開幕するリーグワンの新シーズンに備えている。



