エルゴチオネインと認知症に関する最新研究をご紹介
2025.09.16
こんにちは。きのこ総合研究所 研究員の菅原です。
毎日の食卓にちょっとした工夫を加えるだけで、将来の健康が変わるかもしれません。近年、きのこに含まれる成分「エルゴチオネイン」が脳の健康を支える「長寿ビタミン」として話題になっています。
そこで今回は最新の研究論文をもとに、このエルゴチオネインの脳への働きについて詳しくご紹介させていただきます。
「エルゴチオネイン」とは、きのこに豊富に含まれるアミノ酸の一種で、市販のサプリメントや化粧品にも使われています。体内の細胞を酸化ストレスから守る「抗酸化物質」として注目され、「長寿ビタミン」と呼ばれることもあります。代表的な抗酸化作用を持つ栄養素であるビタミンCと比べてエルゴチオネインは調理によって減少しにくく、一度体内に入ると長く貯えられることが特徴です。

人はエルゴチオネインを自分で作ることができないため、食事から摂るしかありません。その主な供給源が「きのこ」です。抗酸化作用、美肌効果、老化予防…などさまざまな研究が進んでいますが、今回は特に、認知症予防との関わりについて最新の研究を紹介します。
シンガポールで行われた研究(1)では、高齢者470人について最大5年間、体内のエルゴチオネインと認知機能の関係について調査を行いました。結果は、血液中のエルゴチオネインが少ない人ほど判断力や記憶力の低下が速いというものでした。つまり「エルゴチオネイン不足は脳の老化を進めるかもしれない」と考えられるものでした。

では、実際にエルゴチオネインを摂取するとどうなるのでしょうか。軽度認知障害の患者19人を対象にした研究をご紹介します(2)。エルゴチオネインサプリメント25mgを週3回(1日あたり約10mg)1年間継続して摂取した結果、血中のエルゴチオネイン濃度は着実に上昇を続け、言語記憶力など一部の認知機能の向上が見られました。さらに、副作用も報告されていません。つまり、エルゴチオネインは体内に蓄積されやすく、継続的に摂取することで脳の健康維持や認知症予防につながる可能性が示されています。

エルゴチオネインサプリメント摂取が有効そうだと分かってきた一方で、もっと身近で自然な方法はないでしょうか。その答えのヒントになるのが、日本で行われた大規模な調査大崎コホート研究です。この調査では約1万3千人の高齢者を対象に5.7年間の食生活の調査を行いました(3)。その結果、きのこを週3回以上食べる人は、ほとんど食べない人に比べて認知症発症リスクが低いことが示されました。

では、きのこにはどれくらいエルゴチオネインが含まれているのでしょうか。
例えばヒラタケには特に多く含まれており、10g程度で市販サプリメント(1日5mg目安)と同じ量を摂取することができます。スーパーで売られているヒラタケ1袋は大体100g程度のことが多いです。つまり、ヒラタケ一袋分でサプリ10日分にあたるエルゴチオネインが摂取できる計算となります。ですので、一週間に1回はヒラタケ1袋を買って食べるのを目安にすると、毎日サプリを飲むのと同じくらいのエルゴチオネインを無理なく摂れるのでオススメです。

「今晩のおかずに、きのこを一品」。そんな習慣から、脳と体を元気に保つエルゴチオネイン生活を始めてみませんか。
最後に、私のおすすめレシピをご紹介します。

◆ヒラタケの炊き込みご飯
私はよく、ヒラタケの炊き込みご飯をたくさん作っておいて、一食分ずつおにぎりにして冷凍しています。忙しい日の朝ごはんやお弁当にして、手軽に毎日エルゴチオネインを食べられるようにしています。
<材料>2人分
・ヒラタケ…100g
・米…2合
・にんじん…1/3本
・ごぼう…40g
・油揚げ…1/2枚
・三つ葉…3本
・酒…大さじ1
・しょう油…大さじ1
<作り方>
① ヒラタケは小房にほぐし、三つ葉は長さ3cmに切る。にんじん、油揚げは短冊切り、ごぼうはささがきにする。米は洗ってザルにあげる。
② 炊飯器に米、酒、しょう油を入れ、2合の線まで水を入れたら、霜降りひらたけ、にんじん、ごぼう、油揚げを加え普通に炊く。
③ 茶碗に盛り、仕上げに三つ葉を散らす。

◆ヒラタケと根菜のポトフ
きのこと野菜の旨味がたっぷり溶けだした美味しいスープです。エルゴチオネインは水に溶けやすい性質があるので、スープ料理のときはぜひうま味たっぷりの汁まで全部飲むのがおススメです。
<材料>2人分
・ヒラタケ…100g
・じゃがいも…1個
・かぶ…1個
・にんじん…1/3本
・ウインナー…4本
・水…200ml
・顆粒コンソメ…小さじ2
・塩こしょう…少々
<作り方>
① ヒラタケは小房にほぐす。
② じゃがいも、かぶは半分に切る。かぶの葉は3cm幅にし、にんじんは食べやすい大きさに切る。
③ 鍋に水、コンソメを加え、かぶの葉以外の具材をすべて入れてフタをし、10分ほど煮込む。
④ 具材に火が通れば、かぶの葉を入れて更に3分ほど煮込み、塩、こしょうで味を調える。
ぜひ、健康で笑顔あふれる毎日のご参考にしていただければ嬉しく思います。
参考文献
(1)Wu LY, et al., Antioxidants (Basel). 2022,11(9):1717.
(2)Yau YF, et al., J Alzheimers Dis. 2024, 102(3):841-854.
(3)Zhang S, et al., J Am Geriatr Soc. 2017, 65(7):1462-1469.