食生活を正しめることは、心身の調和を図る基本であり、心と体を安んじてこそ良き道が開かれる。

食生活の乱れは、心身のバランスが崩れ病気を引き起こす原因になります。
身体だけ鍛えても精神が置き去りでは、心身のバランスは取れません。
逆に精神ばかり高めても身体が付いていかなければ、これも駄目でしょう。
もともと命あるものは生きるために食べ、食べるためには生きるという巡りをしてきました。
食べ物を求めることが生きる目的であったわけです。
他の動物との食糧争奪戦や、自分を守り仲間を守る戦いは命懸けであったと思います。

寺社会では食即是医(しょくそくこれい)といって「食べ物は医者の働きもする」と考えます。
自分を支えるには食を与え続けなければならない。
生から死までの間、与え続けることは大変なことです。食は命なのです。
私たちは自然界から頂く野草や田畑を耕作して作り上げた穀物、野菜などの農作物を中心にして、
そこに鳥や牛や豚やジビエなどの肉を適度に食して食生活を組み立てる。
私は中国の東洋医学の原本と言われている「素問論」を読み、難しくて読み切れませんでしたが、
そこには人間の生命に拘る食生活のことなども書かれており、
“人間は正しい食生活を行えば、もっともっと長寿が与えられる”とあります。

食事について動物を例にとってみましょう。
牛や馬などは一日中力仕事をしているし、一日中人を乗せていることも出来ます。
象など大移動するときは何日も、ものを食べないで歩き続けます。
そのうえ肉食動物よりも体が大きいのです。
これらの食物は等しく草です。草やわらを食べてあれだけのエネルギーがあるのですから、
いかに自然のもたらす力が偉大であるかよくわかります。

自然界の野草の仲間には「医者いらず」と言われる薬草が多くあります。
薬草の組み合わせが漢方薬です。
中国では、今から3000年ほど前に漢方と組み合わせた薬膳という健康食が出来て、
連綿と受け継がれてきています。

われわれ日本人はもともと穀物を主食としてきました。
四季に応じて自然が与えてくれる恵みを食することが、健康で長生きできる素であると思います。

善光寺大勧進

栢木 寛照大僧正

薬膳とは

薬膳料理とは、その昔、仏教や医学と共に中国から日本に伝わったものです。
全国にある薬師寺の起源には、元来、薬草を集めたり育てる中心であり、
人々の健康を支えていたというお寺や仏教と深いつながりを感じる説もあります。
薬膳料理は、主に身近な食材(野菜、魚、肉など)、一部に薬草を用い、
日々の健康維持、病気を予防するための知恵であり、体の状態に応じて、
食べ物や調理方法を選択する術のことを言います。
毎日食べる「食事」こそが健康の基本です。薬膳は自身の体質、体調や心の状態、
季節の移り変わりに合わせて食材を選び、毎日を健やかに過ごすための食の知恵です。
知識は実践することで知恵となり、知恵は生きる術となります。

薬膳の基本となる「陰陽説」と「五行」

陰陽説

朝と夜、陰と陽などの相対する2つの要素が互いに影響し合って、バランスを取っているという考え方です。例えば一日の時間の中では、深夜0時に向けて「陰」の力が強まり、正午に向けて「陽」の力が強まっていきます。この「陰」と「陽」に合わせて、私たちの気持ちも、ゆったりと落ち着いた気持ちや、明るく活発的な気持ちへと変化していきます。
どちらが強い弱い、良い悪いということではなく、互いがあるからこそバランスを取り合い、変化に対応できる状態でいられます。薬膳では、「陰」と「陽」のどちらにも偏らないバランスのとれた状態へと調整するために、身体が「陰」の時には「陽」の食事を、「陽」の時には「陰」の食事をとることで不調を改善していきます。

陰陽説

「五行」

五行とは自然界に存在するものを「木・火・土・金・水」の性質ごとに5つに分けて、季節や体調、心の状態をみて、必要な要素(食材)を選ぶ考え方です。
例えば、春は芽吹きの季節で緑の食材を意識して摂る、この時期は葉物野菜や山菜など緑の濃い食材が出回る時期です。
このように、季節の特徴にあった食材を食すことが基本的な考え方です。
食物繊維やビタミン・ミネラルが豊富な健康食材のきのこはこの内、「土用」と呼ばれる季節の変わり目や元気がない、
疲れやすいなどの気の巡りが悪い時、気が不足しているときに有効な食材とされています。

「五行」

朝・昼・夕の薬膳きのこ御膳で 1日薬膳体験レシピ

朝の御膳

陰から陽へスイッチを入れ替え、
体のエネルギーをスムーズに
循環させるための食事

甘味

⽇常の中のほっと⼀息つくときに。

酒肴

消耗した気(エネルギー)や
うるおいチャージに。

薬膳について
教えていただいた方は…

善光寺大勧進内 
「薬膳粥処Shijima」

久保田 飛鳥さん

薬膳料理研究科。【知識は学ぶことで知恵となり、知恵は体験することで生きる術となる】
をテーマに、信州の食の知恵を県内外に発信している。